お客さまにとって“便利な人”になれ
やむなく友人の会社の先輩をつかまえては、「何をしたらいいんでしょう」とアドバイスをもらうことも。銀行やメーカーなど業種は違っても、そのなかで胸に響く言葉があった。
「それは『お客さまにとって便利な人がいいんだよ』という言葉。例えば接待ゴルフなど休日も同行し、できる限りのことを尽くすのはカッコ悪い、仕事じゃないと感じるかもしれないけれど、その積み重ねが信用につながることもある。だから『本気で仕事を取りたいと思うなら何でもやってみろ』と言われたのです。確かに自分は『私たちの商品は○○です』などと型通りに勧めていたけれど、本当に役立つことをどれだけ考えていたかといえば、やはりできていなかった。まずはお客さまが望むことに向き合ってみる。その先に成果がついてくるのだと気づかされました」
誠心誠意向き合うことで、だんだん契約を取れるようになった。するとそこで得た信用がまた次の仕事につながっていく。自分でも手応えを掴みかけた矢先、頭をガツンと打ちのめされる事態に直面した。
思い入れのあった事業から外され……
入社7年目にさしかかる頃、ある会社と連携して商品サービスを提供する事業が持ち上がる。リスクはあっても、自分としてはやりたい仕事だけに上司を説得して進めたが、途中でストップがかかり、担当を外されてしまう。社内で議論した末、最終的には動き出すことになったが、再び担当に戻されてもすっかり意気消沈してしまった。
「正直、“何だよ、勝手なことばかり!”と思いながら、くさくさしたまま動いていました。自分ではがんばっているつもりなのに、理解されていないと勝手に思い込んでいて……」
そんなとき声をかけてくれたのが、他の部署の上司だった。
「まあ、いろいろあるよね。でも、君の仕事は見ているから」
そんな励ましの言葉に救われたという荒井さん。さらに相手先の部長に中断した事業再開の報告に行ったときのこと。申し訳なくて「すみません……」と詫びることしかできず黙っていると、明るく笑って答えてくれた。
「本当にいろいろありますよね。自分の気持ちは辛いかもしれないけれど、仕事で起きることって意外に大したことないんですよ」と。
部下からの思わぬ反発
社内でも、社外でも、誠実に仕事と向き合っていれば、ちゃんと見ていてくれる人がいる――。荒井さんにとってそうした経験があったからこそ、管理職になるなら部下を育てるうえでそれを活かせたらと思う。その人の持ち味を見ながら、活躍の場を増やしていきたい。
そんな願いを抱いて部長職についたのが2008年。会社としても事業拡大に向けてチャレンジする時期にあった。荒井さんは自身の感覚でスケジュール計画や目標設定をしていたが、部下から思わぬ反発を受けることになる。上司評価で手厳しいコメントが寄せられたのだ。
「やはりそれぞれのペースもあるので、思っている以上に本人にとっては辛かったようです。目標設定が高すぎる、やらなければいけない業務が多すぎる……と。『こんな状態は辛くてたまりません』と言われたり、『あなたとは違います』と言われたり、夜も眠れなくなるようなコメントも。私はちゃんと人を見ていなかったのだと痛感しました。周りの人がどう感じているのかを察する力がなかったんですね」
そんな反省を踏まえ、部下との面談を細やかに行うようにした。最初はお互いに対面では気まずさもあったが、次第に心ひらいて話し合えるようになっていく。そのなかで部下の人柄や持ち味に気づき、それが営業の現場でも活かされていることがわかってきた。
「実際にプレイヤーとして動いてくれているのは部下のスタッフで、私はたまについていくだけです。すると、そこでお客さんとの良い信頼関係ができているのを感じます。会話のやりとりを聞いていると温かい気持ちになったり、部下をほめてくれる外部の方がいると自分も嬉しくなったり。私もお裾分けをいただいたような気持ちになります」