ゼロから学びを始めるのは困難
おじさんたちに、学び直しで成果を出す可能性がないわけではありません。先ほど生産性の45歳ピークの話をしましたが、これは記憶力のピークです。最近の学習科学では、物事を概念化する能力や、人に何かを伝える能力はまだまだ伸びると言われています。45歳を超えても、概念化によって何かを創造する力や、うまく人に伝えて組織を動かす力は衰えないのです。
企業側も定年延長や雇用延長が広がる中で、シニア層の生産性を向上させることは人事の重要課題です。
ただし、いったん学びをやめてしまった状態からもう一度学び始めるのは、億劫になったり、学び方がよく分からなかったりと、かなり障壁が高いでしょう。自転車に例えると感じがつかめると思います。すでに漕いでいる状態ならそのまま漕ぎ進めるのは楽なのに、いったん止まってから再び走り出すときは初動負荷がかかり、それなりに力を要します。
おじさんたちが学び始めれば、働かないおじさんは減ると思いますが、そう簡単ではないのです。
おじさんたちに高給を支払う余裕はなくなる
働かないおじさん本人は、自分が給料ほど働いていないことを自覚しています。転職すれば必ず収入が減ると知っているので、今の会社に居続けるわけです。そうしたおじさんのことをホステージ(囚われの状態)と呼ぶこともあります。
おじさんたちにも言い分があります。若いころはむしろ賃金の過少支払いが起きていて、今はそれを取り戻しているのだという主張です。生産性カーブが賃金カーブを上回っている部分が過少支払い分に当たります。
私の未来予測を言えば、今後、45歳以上の過剰支払いはなくなると思います。高齢化が進み、70歳まで就業する時代が来るでしょうから、人件費のパイが大きくならない限り、企業は過剰支払いする余裕がなくなるからです。給与体系は、そのときの実績に応じて支払う「ペイ・フォー・パフォーマンス」に徐々に変わっていきます。
優秀な社員のモチベーションを落とさないように、年齢と賃金の関係は、30歳から35歳までは全員同じで、そこから賃金の伸び率が「上がる人」「変わらない人」「下がる人」の3タイプに分かれていくと予想しています。
若い人はすでに、自分が45歳以上になっても過剰支払いが起きそうもないことを感じています。若手にしてみれば、おじさんの「若いころの働きすぎの分を取り戻す」という言い分はなかなか受け入れられないでしょう。