世界基準では家庭内DVもハラスメントに

一方、ILOで討議されたハラスメントには家庭内のDVも条文に入っている。なぜならDVの発生によって労働者が仕事を休んだり、退職することは企業にとってリスクであり、労働者を職場で保護することも広く労働問題であるという理由からだ。すでにDV被害者の休暇整備や、家族が働くことを拒むことを「暴力」として最低20カ国が禁止している実態もある。

ILOの討議には日本からも政府のほか、労働者と使用者の代表が参加している。ハラスメントにDVを入れることに対して「日本政府の代表が『確かにDVでケガをすることは理解できる。しかし、たとえば酔ってケガをして休んでいる人とDVで休んでいる人を同じに扱っていいのか』と発言。参加者から日本の政府は何を言っているんだと、失笑を買った」(参加した労働側代表の1人)らしい。

当初、この条約案を「勧告」にとどめるか、「勧告で補完された条約」にするか討議された。その結果、大多数の国が賛成し、勧告付きの条約にすることで決着した。この条約・勧告には中国、フィリピン、韓国のアジア諸国も賛成している。一方、勧告のみの賛成は各国の使用者代表とアメリカ政府。そして立場を保留したのが日本政府のみであった。

日本政府はその理由について「ハラスメントや労働者の定義が我が国にとっては広すぎる。対策の中で柔軟化が図られるというが、現時点では、条約か勧告かまだ決められないと述べた」そうだ。

ハラスメント対策で日本だけが孤立していく

ILOの「暴力とハラスメント」の条約案は今年の5月末に開催される総会で討議され、出席者の3分の2が賛成すれば条約として採択されることになる。ILOは今年で創立100周年を迎える。ILO事務局はこの記念すべき年に2011年以来となるILO190号条約の採択を目指し、水面下で調整を続けている。

だが、条約を採択しても加盟国が批准しなければその国に前述した効力は発生しない。現時点では日本政府と使用者代表、つまり経団連などは条約批准に消極的姿勢のようだ。

なぜならパワハラ規制を議論した厚労省の審議会で、労働者側委員がILOの動きや諸外国のように日本でもパワハラやセクハラの禁止規定を設けるべきだと主張したが、使用者側委員は定義があいまいであり、職場が混乱するという理由で禁止規定どころか今回の法的規制にも反対し続けてきた経緯があるからだ。

世界中がハラスメント対策を強化しようと動いているなか、日本だけが周回遅れどころか、孤立化に向かっているようだ。