日本ではセクハラの行為者を罰する規定がない
今回の法改正でパワハラに初めて規制の網がかけられ、セクハラ規制が強化された。このことで世の中の関心が高まり、少しでも改善されることを期待したいが、じつはパワハラ、セクハラを含めたハラスメント対策では日本は世界の動きから完全に遅れている。
たとえばセクハラ禁止といえば、セクハラ行為をした本人に何らかの処罰を下すのが当たり前だが、日本では事業主の防止義務があるだけで法的には行為者本人は処罰されない。つまり、行為者を罰する規定がないのだ。
世界銀行の189カ国調査(2018年)によると、行為者の刑事責任を伴う刑法上の刑罰がある禁止規定を設けている国が79カ国。セクハラ行為に対して損害賠償を請求できる禁止規定を設けている国が89カ国もある。しかし日本はこのどちらにも入らず、禁止規定のある国とは見なされていない。
また、日本も加盟するILO(国際労働機関)が実施した80カ国調査では「職場の暴力やハラスメント」について規制を行っている国は60カ国ある。しかし、日本は規制がない国とされているのだ。ハラスメント対策では日本はグローバルスタンダードからほど遠い位置にある。
「クレハラ」「カスハラ」対策でも遅れる日本
世界ではハラスメント対策をさらに強化しようという動きが始まっている。ILO(国際労働機関)は2018年の総会で(5月28日~6月8日)「仕事の世界における暴力とハラスメント」を禁止する条約化に向けて動き出している。
総会で確認された条約案では「暴力とハラスメント」を身体的、精神的、性的または経済的危害を引き起こす許容しがたい行為などと定義している。つまり、セクハラ、パワハラ、マタハラ以外のあらゆる形態のハラスメントが入る。しかも「被害者および加害者」には、使用者や労働者に限らず、クライアント、顧客、サービス事業者、利用者、患者、公衆を含む第三者も入る。
顧客や消費者からのハラスメントは日本でも「クレハラ」(クレイマーハラスメント)、カスハラ(カスタマーハラスメント)と呼ばれ、大きな問題になっている。
産業別労働組合のUAゼンセンが流通業を中心とする顧客のクレーマーによる実態調査をしている(2017年10月)。それによると、業務中に来店客から迷惑行為を受けたことがある人が73.9%(約3万6000人、図表3)。迷惑行為で最も多かったのが「暴言」の27.5%、次いで「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」(16.3%)、「権威的(説教)態度」(15.2%)となっている(図表4)。また、迷惑行為を受けた人のうち、53.2%が強いストレスを感じたと答え、軽いストレスを感じた(36.1%)人を加えると約9割がストレスを感じている。
今回の日本の法改正の審議でもこの問題が取り上げられたが、結果的に取引先からのパワハラや顧客からの迷惑行為の防止については、法的拘束力のないガイドラインを示すことになった。