一番大変だったのは40代前半

30代後半をHSBCで過ごし、40代に入ってからはシティバンクSVP、マスターカード副社長、アドビ システムズ常務執行役員と、着実にステップアップしていく。一見、順風満帆のように見えるが、実はこの間に長女と次男が誕生。仕事と子育ての両立に悪戦苦闘する日が続き、特にアドビ入社直前は長男の中学受験も重なって、これまでで一番大変だったそう。

「物事が思うように運ばなくて、心身ともにつらくなったりモチベーションが下がったりした時期もあります。そんなときは、どうすれば自分をいい状態に持っていけるだろうと考えて、心身のメンテナンスに励みました。可能な限りの規則正しい生活、バランスのよい食事、ジョギングなどの運動、日光を浴びること……。家庭菜園も癒やしになり、いっぱいいっぱいな気持ちをリセットできました」

加えて、子どもの存在は力にもなる。「こんなものもとってあるんですよ」と嬉しそうに見せてくれたのは、長男が幼いころに2人でやりとりしていた交換絵日記。母から子へのページには人気キャラクターのイラストが丁寧に描かれていて、子どもを喜ばせたいと願う親心がひしひしと伝わってきた。

「あの人と仕事できてよかった」と言われたい

多くの転機に直面しながらも、一貫してキャリアを育んできた秋田さん。その原動力を「後で振り返ったとき、自分なりに精一杯やったと思いたいから」と語る。年齢を重ねるうち、ともに働いた友人が亡くなる悲しい体験もした。

「1カ月後には自分もどうなっているかわからない。だから、今ここで皆と仕事ができることの幸せをかみしめながら、誠実に働いていきたいと思っています。そして、いつか自分がいなくなったとき、『あの人と仕事できてよかった』と思ってもらえたらうれしいですね」

現在の目標は、日本の子どもたちの創造性発揮を手助けすること。アドビの調査によると、日本は海外からクリエイティブな国と認識されているにもかかわらず、自らをクリエイティブだと考える日本人はごくわずかなのだという。秋田さんは、アドビ製品を使って小学生のうちから思いを形にすることに慣れ親しんでほしいと考えている。また、日本企業の働き方改革も、デジタルドキュメントツールの導入促進を通じてサポートしていく方針だ。

「今後も、アドビのツールを若者の創造性発揮や働き方改革に役立てもらえるよう、しっかりプロモートしていきたいと思います。私たちの仕事は、皆がハッピーになるよう世の中を変えていくこと。そこを目指して挑戦を続けていきます」

役員の素顔に迫るQ&A

Q 好きな言葉
為せば成る 為さねば成らぬ 何事も
成らぬは人の 為さぬなりけり

Q 趣味
空手、ワイン、旅行
「仕事のためにワインを勉強したらすっかり虜に。ワインエキスパート資格もとりました」

Q 愛読書
『ローマ人の物語』塩野七生

Q Favorite Item

ネーム入りボールペン
「誕生日に長男がサプライズでくれたもの。小さいころフェルトで作ってくれた星も宝物です」

 
秋田夏実(あきた・なつみ)
アドビ システムズ マーケティング本部 副社長
東京大学経済学部卒業。1994年メガバンク入行。東燃(現・東燃ゼネラル石油)に勤務後、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBA取得。帰国後、新生銀行、HSBC、シティバンク、マスターカード等を経て2017年アドビ システムズ入社。18年、副社長に就任。

(文=辻村洋子 写真=小倉和徳)