村上さんが初めて管理職になったのは、入社10年目の30代の頃。
「リーダーになることはその人のそれまでの人格や経歴に、みんなが納得している結果だ」という上司の説明を、逆にプレッシャーに感じてしまった。模範的な上司であろうと頑張りすぎてうまくいかず、部下から厳しい評価をもらったこともある。
「外資系では360度評価は当たり前です。でもその厳しい指摘こそ、自分にとってはいい教訓でした。上になると、自分のダメなところを指摘してもらうことは滅多にありません。成長する機会をもらったと思って、今では感謝しています。日本では年功序列で管理職になることも多いと思いますが、部下の多様性とチームとしての多様性を生かしていくためにも、マネジメント層の教育は不可欠です」
管理職としての仕事にも、随所で女性初と言われることにも慣れた頃、約20年の海外生活ののち日本に戻ることになった。しかし、なつかしいはずの日本で、気分は浦島太郎のようだったという。高齢出産で3人を産んだが、働きながら育てることさえ「子どもがかわいそう」と言われることにも驚いた。
「確かに働いていたら一緒に過ごせる時間に制限はあります。でも、行事や節目など『ここぞ』というところは必ず都合をつけます。それに、働いていることでハッピーな親の姿を見せることが、何よりいいのではないでしょうか」と村上さん。家庭も仕事も両方でパーフェクトを目指す必要はなく、もっと等身大で両方を楽しんでほしいと話す。
「女性たちには、もっと取締役や執行役員など意思決定の場面にどんどん入ってきてほしい。だからこそ今は、完璧ではない自分だけれど、仕事が楽しいという姿を見せることが何より大事だと思っています」
Power is like being a lady… if you have to tell people you are,you aren’t.
―Margaret Thatcher―
権力は淑女であることと同じなのです。その力を持っていると言わなくてはいけないのなら、本当はそうではないのです。
●マーガレット・サッチャー元英国首相(1925~2013)
イギリス保守党初の女性党首(在任1975~1990)、そして初の女性首相(在任1979~1990)となり、強硬な政治姿勢に「鉄の女」と呼ばれた。イギリス経済の立て直しを図り、水道、電気、ガス、鉄道、航空などさまざまな国営事業の民営化や経済規制緩和、社会保障支出の拡大など急進的な改革を行った。
当時の私
サッチャーさんは何度かイベントなどでお見かけしていましたが、実際にお話ししたのは2回ほど。ロンドンの後、NYのウォール街でも20年働きましたが、自分が経験を積むほど彼女の言葉への理解が年々深まっていく気がしました。
撮影=小野さやか