「実は、サッチャーさんには何度かお会いしたことがあります。服から靴、バッグまで全身コーディネート。髪もしっかりセットされ、香水も香り、実際は“鉄の女”ではなく、まさにレディーの印象でした」
OECD(経済協力開発機構)の東京センター長として活躍し、多くの女性のロールモデルでもある村上由美子さん。元英国首相のマーガレット・サッチャー氏に会ったのは、NYが本社の投資銀行、ゴールドマン・サックスに就職し、ロンドン支社に異動になった新人時代だったという。
「まだバンカー1年目でした。日本より女性進出が進んでいたとはいえ、まだまだ金融業界は男性優位な社会で、『負けないように頑張らなきゃ』と私は肩に力が入っていた時期」と当時を振り返る。経済界の集まりなどで何度か当時の首相だったサッチャー氏を見かけることはあったが、ある時実際に話をする機会を得た。
「鉄の女と聞き、よほど怖いのかと思ったら、ぺーぺーの私にも気さくに話しかけてくれました。『女性として活躍し、素晴らしい政治家のあなたを尊敬します』というようなことをお伝えしたと思いますが、そのときに『人生はアンフェア(不公平)なのよ』と言われたのが印象的でした。彼女にとっては女性初とか男性優位なんてすでに仕方ないことで“So what?”(だから何?)というレベル。文句を言うより現状を受け入れて、自分がどう動いていくかが大切なんですよね」
その一言は、村上さんの肩の力をスッと抜いてくれた。サッチャー氏の名言で印象深いと挙げてくれた言葉も、同様だ。
「日本社会は肩書や地位を気にしますし、どの世界でも肩書を良く見せたい人はいる。たくさんのリーダーを見てきましたが、これからはまさにイノベーションを促進するリーダーシップが求められます。それはトップで引っ張るより、“羊飼い型”。さまざまな才能のある多様な人の個性を尊重し、自由に取り組んでもらいながらも、後ろから何となく同じ方向に追っていくようなまとめ方がいいといわれます。ボスがいると気付かれなくてもいいくらい。自分がリーダーだと主張する必要もない。まさにサッチャーさんの言葉は、それにつながるものを感じます」