こんな要素がメンタルヘルス不調の引き金に……

脳の機能障害が起こるしくみは、残念ながらまだ解明されていない。だが、医師から見ると、うつ病の診断が下りる人には、一定の共通点があるようだ。

「まじめで几帳面(きちょうめん)で完璧主義、負けず嫌いで自分に厳しい。そういう性格の人が多いと思います」と野田先生。ものの考え方や職業観は、肉親からの影響も大きいと考えられる。そこで野田先生は、初診の患者に両親がどんな人か、どんな育てられ方をしたかをヒアリングしているという。

ただ、性格は「心の不調を引き起こす要因のひとつ」に過ぎず、職場の環境によるところも大きい。セクハラやパワハラはもちろんだが、上司から「期待してるよ」と言われて断れず、許容量を超えた仕事を抱えている人も、うつ病になるリスクが高い。職場の人間関係も、ストレス要因として無視できない。

「女性が多い職場では仲のいいグループごとに休憩や食事に行ったりしますが、その輪に入っていけない人は孤立して、心に問題を抱えやすくなります」と野田先生。

心理的なストレスが原因で精神障害になったり、過労自殺で労災認定されたケースは、年に500件近くにのぼる。

「男女別のデータを見ると、男性は製造業、女性は医療や福祉関係の仕事についている人が最多という結果でした」と丸山先生は話す。

「医療や福祉の仕事を選ぶ女性の多くは、人を助けたいという理想をもっています。ところが、いざ現場に出ると、患者さんやお年寄りへの接し方に問題がある上司や同僚もいる。そのギャップに悩み、無力な自分を責めてしまうのでしょう」

私生活では、家族に問題があったり、一見ハッピーに見える結婚や出産が強いストレスを抱えるきっかけになるケースもある。

「カサンドラ症候群といって、女性のうつ病の原因が実は夫のアスペルガー症候群だったとわかることがあります」と野田先生。

アスペルガー症候群も精神障害のひとつで、他人の気持ちが理解できず、対人関係でトラブルを起こしやすい。こういった家庭や家族の問題は、職場では話題にしにくいもの。家族や当事者が病気を疑い、医療機関に行くしかない。

イラスト=MAIKO SEMBOKUYA

(1)まじめで几帳面な性格
完璧主義で責任感が強い。仕事を人に任せられず、自分ひとりで抱え込んでしまう。


(2)職場の人間関係と過重労働
グループ内で孤立している。仕事量が多すぎる。セクハラやパワハラにあっているなど。
(3)家族との不仲や病気
夫、子ども、父母、義父母など、家族とのいさかいや価値観の不一致、病気で悩む人も。
(4)大きなライフイベント
周囲からは祝福されるような出来事でも、環境の変化についていけず苦しむ人がいる。