メンタルヘルスの治療は、薬+認知行動療法が主流

あるテレビ番組で、うつ病を経験したフリーアナウンサーの丸岡いずみさんが、「精神科の薬を飲むと人格が変わってしまうのではと不安になり、薬をこっそり捨てていた」と告白した。しかし、入院して薬を規則的に飲むようになると、つらい症状がウソのようにおさまっていったという。

「精神科の薬をこわがる人が多いのですが、脳内物質のバランスを整えて、脳の機能を正常にするなら、やはり薬物療法が基本。うつ病の場合、脳内の神経伝達物質にピンポイントで作用するSSRI、SNRIと呼ばれる薬が主流です」とTomy先生。少量から始めて、1~2週間様子を見るのが一般的だという。

薬である程度の効果が出てきたら、精神療法(精神科医や臨床心理士によるカウンセリング)を並行して行うことが多い。「現在、有効だと実証されているのは、認知行動療法です」と野田先生は解説する。

「簡単にいうと、マイナス思考のクセを変えていくものです。『仕事を完璧にこなせないといけない』『こんなこともできない私はダメな人間』。そうした考え方が偏っていることに気づいてもらい、修正していく。うつ病の再発防止に効果があるといわれています」

薬が効かないか、副作用が深刻で薬が使えない場合は、麻酔下で脳に微弱な電流を流す「修正型電気けいれん療法(mECT)」を実施することも。電極をつけることに抵抗をおぼえる人もいるが、即効性があり、自殺するリスクが高い重度のうつ病に有効だという。

このほかに、磁気を出すコイル装置を頭部に近づけて、脳の神経細胞に刺激を与える「反復性経頭蓋磁気刺激法(rTMS)」というものがある。こちらは麻酔の必要がなく、2018年内に保険適用される見込みだ。

うつ病は再発しやすく、長期休職すると復職が難しいというイメージもあるが、近年は復職支援(リワーク)プログラムに力を入れる医療機関が増えている。認知行動療法で考え方のクセを修正するほか、対人関係をスムーズに行うためのグループワークや、規則的な生活を送り、きちんと休息を取るよう指導を行う。

職場に戻れば再びストレスにさらされるが、「悲観的な考え方」を修正できれば、心のダメージは軽減される。また、生活のリズムを整え、仕事以外に楽しむ時間をもつようにすれば、ネガティブな感情をひきずらずにすむ。

「大事なのは、ストレスとのつきあい方を変えていくことだと思います」と丸山先生は話す。「パワハラやセクハラなどのストレスは取り除く必要がありますが、管理職への昇進や、未経験の仕事などは、長い目で見れば人を成長させてくれる“よいストレス”。すべて悪いものだと決めつけず、上手に楽しくつきあっていくという発想を取り入れてほしいです」

イラスト=MAIKO SEMBOKUYA

(1)投薬
脳の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)に作用する抗うつ剤は、SSRI、SNRIと呼ばれる薬が主流。不安障害や強迫性障害などにも処方される。


(2)認知行動療法
特別な訓練を受けた精神科医や臨床心理士が行う精神療法。ものごとを悲観的・否定的にとらえるクセ(認知のゆがみ)を患者に自覚させ、修正していく。
(3)修正型電気けいれん療法
麻酔下で、頭の表面から電流を2~3秒通し、軽いショックを与えてうつ病の症状を改善する。即効性があり、自殺する危険がある重症な患者に適用される。
(4)復職支援プログラム
産業医や臨床心理士などの有資格者が、精神障害で長期休業している患者の復職をサポート。日常生活の改善指導や対人交流を学ぶグループワークもある。
丸山総一郎(まるやま・そういちろう)
神戸親和女子大学教授・同大学院教授
大阪大学医学部卒業。専門はストレス科学、産業精神医学。日本産業ストレス学会常任理事、日本産業精神保健学会理事などを務める。主な編著書に『働く女性のストレスとメンタルヘルスケア』(創元社)。
 

野田順子(のだ・じゅんこ)
野の花メンタルクリニック精神科医師
三重大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科・精神科、松沢病院で研修。産業医などを経て、2001年より開業。主に女性のうつ病、統合失調症、不眠症などの治療にあたる。著書に『女性のうつ病』(主婦の友社)。
 

Tomy(トミー)
1978年生まれ。某国立大学医学部卒業。大学病院の精神科医局、精神病院の勤務医を経て、2013年にクリニックを開業。常勤医の傍ら「ゲイの精神科医」としてメディアに出演。『失敗しない“心のお医者さん”の選び方 かかり方』(主婦の友社)ほか著書多数。
 

イラスト=MAIKO SEMBOKUYA 写真=iStock.com