接客マニュアルは、存在しない

石黒さんが最初にスターバックスに入ったのは、調理学校に通っていた19歳のとき。卒業とともに都内の一流ホテルに就職し、スターバックスで磨いた笑顔と接客スキルが評価されてキッチンとレストランのホールをつなぐサービス部門に配属された。「ホテルでは、心地よい緊張感のある空間で、お客さまを敬い、伝統を重んじる素晴らしいサービスを学びました」と石黒さん。だがその一方で、スターバックスでのカスタマーサービスを振り返り、より心引かれるようになったという。「スターバックスであれば、オーナーシップを持って、もっと素直に“お客さまを喜ばせたい”という気持ちと行動を表現できると思ったんです」。2年でホテルを退職し、スターバックスに戻ることを決める。

「オーナーシップを持って働ける」。パートナーたちが、スターバックスの魅力として挙げるのがこの言葉だ。スターバックスには、接客マニュアルが存在しない。どんな接客をするべきか、パートナーたちがそれぞれ自分で考えて責任を持って行動する。

「オーナーシップというのは、仕事を楽しんでこそ醸成されると思うんです」と言うのは、人事の荻野さん。「自分事として没頭してはじめて、仕事は楽しいと感じるもの。オーナーシップが生まれることで、パートナーは仕事から充実感が得られるし、お客さまにスターバックスの提供価値をお届けできるチャンスも増える。経営面から見ても、こういうマインドセットで仕事をしているパートナーの集団であれば、パフォーマンスは当然高くなります」

現在東京ミッドタウン店の時間帯責任者を任されている石黒さん。目下、楽しみにしているのは、2019年2月に東京・中目黒にオープン予定の、ロースタリーを併設した新業態の店舗で働く機会を得ることだ。

東京ミッドタウン店 ストアマネージャー 北森晴香さん

東京ミッドタウン店のストアマネージャーの北森晴香さんは石黒さんの接客を「目の前にいるお客さまがスターバックスでどういう体験を望んでいるのか、一瞬で察して、コーヒーの世界に誘(いざな)うことができる。1度会っただけのお客さまをファンにしてしまうことができるんです」と評価する。「石黒さんのように『コーヒーを極めたい』というパートナーにも、活躍の場が広がっていて、当店のようなリザーブバーや、ロースタリーなど、より多様な働き方ができるようになってきました」

大事なのは、パートナーの一人一人がどんな働き方を望んでいるのか。お客さまの満足の前に、働く側が充実感を持ち、幸せでなければいけない。「仕事が楽しくなければ、人生は楽しくない」。「人が辞めない」スターバックスの基本にある考え方だ。