「仕事に臨む姿勢」を、長時間かけて研修

接客マニュアルのないスターバックスだが、「Our Mission and Values」(以下、ミッション&バリューズ)と呼ばれる企業理念と行動指針が同社の目指すサービスのよりどころとなっている。パートナーは入社するとすぐに、同社の理念や価値観を理解するため、全員が約40時間におよぶ研修を受ける。現在は動画を導入するなどしてこの時間に短縮されたが、以前は80時間を費やしていた。会社や上司から言われたことに従うだけではなく、「仕事を通して自分がどうなりたいのか」「スターバックスでどんな経験がしたいのか」を考えて仕事に臨む姿勢を染み込ませることで、オーナーシップが培われていく。

▼すべての行動のよりどころとなる企業理念&行動指針
OUR MISSION
人々の心を豊かで活力あるものにするために──ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから
OUR VALUES
・私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します。
・お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。
・勇気をもって行動し、現状に満足せず、新しい方法を追い求めます。スターバックスと私たちの成長のために。
・誠実に向き合い、威厳と尊敬をもって心を通わせる、その瞬間を大切にします。
・一人ひとりが全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます。
・私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます。
▼この方法で、自分で考えられる人が育成される!
バリスタ シフトスーパーバイザー、アシスタントストアマネージャー ストアマネージャー ディストリクトマネージャー
アシスタントストアマネージャー全員がストアマネージャー候補。おのおのに合った育成計画を立て、「8時間半の本社トレーニングではあらためて自分を振り返り、『自分はどんな店づくりがしたいのか』を確かめます」(下青木さん)。

東京・大崎ブライトタワー店でストアマネージャーを務める及川彩さんは、大学1年生のときにスターバックスで人生初のアルバイトをスタート。その後、新卒で入社してから2018年で15年になる、正真正銘の生え抜きだ。その間、「スターバックスを辞める」という選択肢は及川さんの中にはなかった。

(左上)大崎ブライトタワー店 ストアマネージャー 及川 彩さん、(右上)営業本部 ディストリクトマネージャー 三宅洋平さん、(下)1日6時間の時短勤務をとる及川さん。パートナー同士、カードにメッセージを書いて密にコミュニケーションをとる。

根底にはアルバイト時代のある思い出がある。01年に起きた米国同時多発テロの後、店舗にやってきたニューヨーク出身の常連客に「私も悲しい」と声をかけたところ、思いがけず非常に喜ばれた。「誰かの心に寄り添えることに、すごくやりがいを感じました」

及川さんの利他的なモチベーションは、当時も今も変わらない。3人の子どもの母親でもある及川さんは、17年から自主的に、子育て中のパートナーや、産休・育休中で仕事復帰に不安のあるパートナーらを集めた勉強会をスタート。座談会のような形でそれぞれ悩みや体験をシェアし、仕事復帰に対する不安材料を取り除くことを目的としている。参加者の対象エリアは南東京の約100店舗。「久しぶりにアルバイトをする主婦の方、社内では“チャレンジパートナー”と呼んでいる障がいのある方など、パートナーにもいろんな方がいますし、いろんなお客さまをお迎えします。一人一人がきちんと尊重され、その人らしく輝けるお手伝いをしたい。今は自分の店舗でできることを実践していき、将来的にはより大きな範囲でかかわっていきたいと考えています」

マニュアルがないスターバックスでは、皆が働きやすい職場を、全員でつくり出そうとする。大崎ブライトタワー店を管轄するディストリクトマネージャーの三宅洋平さんは言う。「根幹にあるのは、ミッション&バリューズの中の『威厳と尊敬をもって心を通わせる』という言葉。スターバックスが評価するのは、その人自身の行動。良いところは認め合い、自由に個性を発揮することができるのです」