病児看護で1週間休んだ後、同僚からかけられた言葉

15年に同じ店の調理場で働いていた亮太さんと結婚し、子どもが生まれる。サブチーフに昇格した直後だった。サブチーフは、キッチンとホールに1人ずついるチーフ(責任者)を支える2番手である。結花さんは出産後の働き方で迷った。

(上)矢場町本店ホール担当 菊次結花さん、名古屋駅名鉄店キッチン担当 菊次亮太さん、(左下)総務(兼)商品管理部 坂 元子さん、(右下)常務取締役 藤下理恵子さん

「子どものお迎えもあるし、お店が忙しい日曜・祝日は保育園が休みになってしまいます。仕事を辞めないまでも、正社員で戻るのは難しいかなと思っていました。でも、会社が正社員で戻っておいでと言ってくれました。子どもを育てるにはお金が要るからと」

勤務シフトを日曜・祝日休みにしてもらった。小さな子どもは急に熱が出たり風邪をひいたりすることも。

「急にお休みをいただくこともあります。つい最近もRSウイルス感染症にかかってしまい、1週間ほどお休みしました。職場に戻るときちょっと気まずくて、同僚に『ご迷惑をおかけしました』と謝ると、『全然。お子さん、大丈夫?』と声をかけてもらえました」

このように今の矢場とんには、育児をしながら働き続けられる環境がある。そこには常務の藤下さんの思いがこもっている。藤下さんは先代の娘として生まれ、まだ家族経営の環境下で子ども時代を過ごした。

「小学生の頃、土曜授業が終わってお腹をすかしてお昼に帰っても、母はお店が忙しいから私たちのご飯よりお店を手伝うのが常。夏休みも家族で旅行したことがありません」

藤下さんも小6から短大を卒業するまで店を手伝った。その後6年間旅行会社に勤め、結婚・妊娠を機に家業の手伝いに戻った。

「出産の2~3カ月前まではカウンターに出ていました。出産後は事務仕事です。子どもは店の上階で寝かせてときどき授乳。子どもが動きだすと時々大きなポリバケツに入れたり(笑)。でも、これって店の娘だからできたのかな、ほかの社員も子育てしながら働けるようにならなければいけないと思いました」

藤下さんは女性社員が自分と同様に子育てをしながら働けるよう、個別の事情を考慮しながら支援を行った。一緒に保育園を探し、保育園の送り迎えができるように特別に車通勤を許可し駐車場も用意した。事務所の中にベビーベッドや絵本などを置いた、ちょっとした子ども部屋をしつらえ、保育園が終わった後も子どもがそこで過ごせるようにした。

今では保育園も充実してきたので事務所に子ども部屋はないが、社員が自分の子どもを連れてくることはしばしばだ。

「事務所でハイハイしているのを見ると私たちもかわいいしぐさに癒やされるし、子どもたちにとっても働く親を見て育つことは大事ですね」

社員の子どもは矢場とんの子ども。そんな空気が職場に流れている。