訪日外国人数は急増が続いていて、2017年には2869万人に達した。「830万人」といえば、約3.5人に1人がカジノを訪れることになる。日本を訪れる外国人には、それほどギャンブル好きが多いのだろうか。シンガポールの「400ドル」という客単価にしろ、中国人VIPの存在があっての数字だ。中国人の少ないラスベガスの場合、客単価は150ドル程度まで低下する。

パチンコ愛好者の平均負け額は「年23万円」

推進派が決まって日本版カジノのモデルに取り上げるのが「シンガポール」だ。

「シンガポールはカジノができたおかげで外国人観光客が急増した」

大型カジノがあるシンガポールの「マリーナベイ・サンズ」。(写真=iStock.com/joyt)

そんな声も彼らからよく聞かれる。確かに、シンガポールを訪れる外国人の数は、カジノ誕生の2010年を境に増加した。だが、その要因は何もカジノだけにとどまらない。増加の背景には、08年秋の「リーマン・ショック」で大幅に落ち込んだ外国人訪問者数の回復分も含まれる。

もともと推進派はシンガポールを例に取り、カジノが「外国人観光客2000万人」達成のための切り札になると主張していた。しかし、カジノなしでも「2000万人」は実現した。カジノ解禁が決まった現在では、もはや外国人観光客とカジノの関係すら口にしない。

シティ・グループは日本人が年117億ドル(約1.2兆円)をカジノで使うと想定するが、この試算もかなり甘い。670万人が訪れ、1人が平均17万円を負けてやっと実現する。これは日本に1230万人いるパチンコ愛好者の平均負け額が年23万円というデータに基づいている。

しかし、レポートがつくられた後、パチンコ愛好者は1000万人以下まで減っている。しかも全国に散らばる愛好者が、わざわざカジノまで出向き、20万円近い大金をスッてくれるだろうか。

カジノ収入の「8割近く」は日本人の懐から

興味深いのは、シティ・グループが「パチンコ」を参考にして、日本のカジノ市場の規模を推計している点である。日本への参入を目指す外資系カジノ運営企業の狙いが、パチンコ市場の切り崩しであることを表している。

日本に誕生するカジノの運営は、外資系が担う可能性が極めて高い。そうなれば、収入のかなりの部分は外資系が持っていく。その「8割近く」は日本人客が落としたものだ。つまり、外国人のカネを狙うはずのカジノが、逆に外資系が日本人の富を吸い上げる装置となってしまうわけだ。

肝心の税収はどうか。政府は今年2月21日に開かれた自民党の会合で、日本人から2000円の入場税を徴収する一方で、運営業者には収入の一律30パーセント、もしくは30-50パーセントの累進課税を課す案を示した。入場税はシンガポールが自国民に課す「100シンガポールドル」(約8000円)よりもずっと低い。その一方、業者への課税率は、VIP収入に12パーセント、一般客からの収入に22パーセントを課税するシンガポールよりも高い。

「年1.5兆円」の収入に30パーセントを課税すれば、年4500億円の税収となる。加えて入場税も見込める。しかし「1.5兆円」はカジノ解禁をあおるためにつくられた数字で、極めて現実味に欠ける。収入が10分の1になれば、業者からの税収は450億円にしかならない。しかも「8割近く」の出所は、日本人の懐なのである。

また、カジノで負けが膨らめば、他の消費に回る金額が減る。そう考えれば、単純に税収が上積みされるわけでもない。

単に税収を増やしたいというのであれば、パチンコの換金に課税すればすむことだ。パチンコ業界は衰退が著しいとはいえ、20兆円を超える売り上げ(貸玉料)がある。1パーセントの税を課すだけで、2000億円の税収が得られるのである。