15年間かかったOEMからの脱却
実は、バブル景気以前から、装飾金物の発注には好不調の波があった。そのために住宅エクステリアのOEM仕事を少しずつ引き受けてはいた。だが、あくまでも補完的なものだった。バブル崩壊後はそこを拡大していかざるをえなかった。ただし、一般的なOEMとの相違点は、自社開発製品だったこと。通常は相手先メーカーから製品図面をもらい、ウチが見積もりを出して生産する。ウチの高い商品開発力や品質を買ってもらい、建材メーカーから声をかけてもらっていたので、OEMを手がけるときも、あくまでも自社開発した製品を、相手先ブランドで売ってもらう形にしていた。
ところが、OEMの売り上げが伸びてくるに合わせるように、長引くデフレ景気もあり、今度は委託先からコストダウンを求める声が毎年大きくなってきた。そのうえ、装飾金物も落ち込んで、OEMに頼らざるをえないという状況に陥った。「このままでまずい、何か新しい事業の柱を作らなければ」と考え、まず住宅事業を1999年に立ち上げた。当時はまだ早いと言われていたゼロエネルギー住宅のビジネスだ。住む人の健康と地球環境の両方に配慮した家づくりを目指した。
一方で、OEMの委託先からのコストダウン要請がさらに厳しくなり、最終的には従来のような商品提案も不要になった。最安値を提示したメーカーを選んでいく、という方針転換が行われた。その代わりに拘束もなくなり、住宅エクステリアの分野でも、他社と自由に取引して構わないという。ウチとしても、このままOEMのコストダウン要請に付き合っていても、未来はないと考えていた時期だった。そこで住宅事業に続き、現在の主力製品である「ディーズガーデン」というブランド名で、高級ガーデンエクステリア事業を、約3年の準備期間を経て立ち上げた。
しかし、今年度もまだOEMが売上全体の1割ほどあり、完全にゼロになるのは来年度以降だ。最高時には、売上全体の6割強を占めていた年もあった。「ディーズガーデン」ブランドの生産を始めて、OEM を完全脱却するまでに15年かかったことになる。
「もの売り」から「こと売り」への変身
「ディーズガーデン」ブランドで最初に手がけたのが、「カンナ」という南欧風の物置シリーズと郵便ポストだ。対象顧客層は、30代から50代の専業主婦。世帯年収は800万円以上で、敷地面積50坪以上の洋風住宅に住み、自分のほしい物にはお金を惜しまない主婦をターゲットにした。
なぜ、専業主婦なのかというと、家庭での購買決定権を持っているから。南欧風に絞ったのは、当時建築されていた国内の洋風住宅の中でも、南欧タイプが一つの市場を持っていたことが理由だ。なぜこの分野を選んだかというと、競合となる大手が元々サッシメーカーで、製造に手間がかかり、付加価値の高いデザインが苦手なことをわかっていたからだ。
南欧風物置のカンナを購入されたお客さまからいただいたお手紙を読むと、こんな感想が多い。「カンナを買ってから、朝カーテンを開くのが私の楽しみになりました」「以前は、家の中でお茶を飲んでいましたが、今は吹き出しの窓の前の庭に置いてあるカンナの前にガーデンチェアを置き、そこでお茶を飲むのが楽しみです」。
高断熱で高気密な家は非常に心地いい。しかし、それだけでは健康的ではない。人はやはり表にも出たくなるし、家の中にリゾートっぽい空間があれば癒され、豊かな気持ちになれる。つまり、私たちは「もの売り」から「こと売り」へと、ライフスタイル提案を行う企業に変身したことになる。それ以前は100人乗っても壊れないといった、耐久性をアピールした物置しかなかった。だから、「カンナ」はヒット商品になった。
先代が明文化した「傳來合言葉」というものがある。たとえば「新しく変わったものを創れ」とか、「後の世に誇れるものを送れ」といったポリシーだ。もともとウチにあった、もの創りのDNAが息を吹き返した。