会社の数字は包み隠さず公開するのが星崎流。(写真提供=メガネスーパー)

メガネスーパーを100年続く企業にしよう

最初は手探りだったが、メガネスーパーの思いはお客さまにも伝わりつつある。重要なのは3万6000円のメガネが売れるようになったことではない。3万6000円分の満足感を、お客さまに味わっていただけていることだ。満足感こそが、メガネスーパーの付加価値だ。

アンケートなどを通じて、お客さまからのフィードバックをいただいているが、お褒めの言葉を数多くちょうだいしている。もちろん、私たちには至らない点も多い。それは真摯に受け止め、襟を正して取り組もう、と社員に話している。

お客さまに応援していただけなければ、5年後、10年後には会社がなくなるかもしれない。私はよく「メガネスーパーを100年続く企業にする」と口にするのだが、それを実現するには、お客さまのために、次の世代のスタッフのために、誠実に仕事に取り組まなければならない。今の社員たちは全員、メガネスーパーを100年企業に育てていくという、重要な役割を担っている。

会社の歴史を紡ぐのは私たちだ。そこにロマンを感じてほしい。情緒的に聞こえるかもしれないが、組織を動かすためには、ロマンも必要だ。

経営者には、「見る」という時間が必要

「低価格化」という業界のトレンドに逆らって、「高付加価値追求」に転換したわけだが、社長就任の直後からそれを打ち出していたとしたら、おそらく社員はついてきてくれなかったと思っている。他の経営者の悪口を言うつもりはないが、新しいトップは就任するとすぐに自分の色やビジョンを出したがる。組織を変えようして、戦略を変えようとして、拙速に変化を求めてしまう。

しかし、その組織のこと、業界のことは一朝一夕に把握できない。現場のスタッフは何に悩んでいるのか、社内のどこにボトルネックが存在しているのか。そういったことは、最低でも3カ月、できれば半年から1年くらいかけて、じっくりと見ていなければ、掴めるわけがない。「アイケアカンパニー宣言」も、現場に積極的に触れて、よく見て、よく考えることを重ねながら到達したビジョンにほかならない。

優れた経営者とは、まず「見る」ことができる人ではないだろうか。私はメガネスーパーの社長になるまで、さまざまな業界の企業経営に携わってきた。実のところ、どの会社、どの業界でもやるべきことは同じだった。

業界の潮流はどうなっているのか、経営を担う組織のストロングポイント、ウィークポイントは何なのか。それを踏まえて、絶対にグリップしておかなければならない勘所はどこにあるのか。まずはそこを見極める。課題が浮かび上がってきたら、スピード感と責任感を持って対応していく。

社員が社員を励ます、という段階

私とビジョンを共有できている社員は、間違いなく増えている。現在、当社は地方のメガネチェーンとのM&Aを加速させている。メガネスーパーの社員が“自主キャラバン”のごとく、新しくグループに加わった店舗のサポートに出向いてくれるようになった。私がグループ店に出向くと、当社の社員とばったり会うのだ。

「あれ、どうしてここにいるの?」とたずねると、「できる範囲ですが、応援に来ています。2週間ほど」なんて答えてくれる。そういう姿を見ると、本当に嬉しくなる。

一方、買収されたチェーンのスタッフは、不安しかないはずだ。いきなり看板が変わり、業務の進め方も変わり、新しいPOSが導入され……。わからないことだらけなはずだ。そんなとき、メガネスーパーの社員が自主的にやってきて、「手伝いますよ!」と言ってくれたら、どれだけ心強いか。

聞くところによると、「僕らも、社長が新しくなって本当に混乱したし、『そんなこと、できるわけない』という施策に何度もへこたれそうになった。でも、僕らでもできたのだから、アナタたちにもきっとできます」と言葉をかけ、一生懸命、教えているのだとか。この話に、私は感動した。

社員が同じ思いを共有し、一丸となって物事に取り組む意識が感じられたり、困っている店があれば、サポートを買って出る姿勢を見せてくれたりすると、「組織の土台を強くすることに貢献できたかな」と安心する。さらに嬉しかったのは、スタッフを応援に出してメンバーが不足した店舗の売り上げが落ちていないことだった。自分がいなくても業務に支障がないような状況をつくり、残ったスタッフが穴を埋めるべく、柔軟に動いているから、売り上げが落ちない。落ちないどころか、むしろ上がっているケースも多い。本当に素晴らしい。