この改革は社内のワーキングマザーの空気も変えた。

「制度は整っていたのですが、うまく使えるかどうかは、以前は上司やその人のコミュニケーション次第で個人差があった」と2児の母でもある公共サービス・医療健康本部のシニア・マネジャー、大河原久子さん。今は時短で働き、PRIDE以前から部署内で「女性活躍支援」のネットワーキングなどをリードしてきた。PRIDEで、午後6時以降の会議の原則禁止、短時間で成果を出すこと、短時間の会議がスタンダードになると、子どもがいる人の悩みだった長時間労働が解消される。

公共サービス・医療健康本部 シニア・マネジャー 大河原久子さん

「ワーママだからと特別扱いされるのが居心地悪かった。復帰後1年で昇進したい人もいるし、夕方5時に帰りたい人もいて、ワーママも多様なんです。ワーママに限らず、全員のプライベートも大切にする多様性の風土の醸成へ、一気に会社が舵を切ってくれました。6時以降にメールは来ないし、男性マネジャーも在宅勤務で会議に参加したり、育休をとる男性も多いです。男性に保育園の相談をされることも」

PRIDEの進捗は、全社員に対して15項目のアンケートを定期的に行い、すべて社内で共有。以前はPRIDEにポジティブな回答は半数以下だったが、今では約7割になった。

大幅な残業の減少、離職率の低下、有給休暇取得率の向上など、数字にも表れ始めた。アクセンチュア日本法人の女性比率は世界全体で見ればまだ高くないが、新入社員の女性比率5割を目指した採用活動を行うなど、女性社員の比率も改善しつつある。

「まだまだ道半ばですが、2年かけてやっと外に言えるような成果が見えてきました」と江川社長は話す。

変化は企業文化にも及ぶ。

「もともとアクセンチュアは男臭いカルチャーの会社だったんですよ。それが、PRIDEの副産物として、みんなが優しくなった。クリスマスパーティーのときに『大切な人への“感謝”を伝えるキャンペーン』として、家族やお世話になった人へのビデオメッセージを募りました。奥さんに『ありがとう』とかね。当時約7000人の社員から1000通のビデオメッセージが届きました。以前なら考えられないことです」

業績を下げずに働き方改革を成功させることは非常に難しく、経営者には取り組みにくい課題だと江川社長は言う。

「日本は世界一労働者が足りない国で、女性や外国人を活用しないというのはあり得ない。それを理解した男性社員はPRIDEの意義を感じ、心が優しくなってくる。男性社会のぎすぎすした会社から、劇的に変わったと思っています。若手の中には“早く帰れる甘い会社”と勘違いするメンバーもいますが、実は時間内の成果を求められる厳しい働き方。甘いと優しいは違うんですよ」

2017年3月に国は「働き方改革実行計画」で「労働時間の罰則つきの上限規制」の導入を決めたばかりだ。「働き方改革」の追い風を利用して、改革に踏み切るかどうか、今、経営者の覚悟が問われている。

撮影=市来朋久、吉澤咲子