クライアントファーストからクライアントバリューへ

とはいえ、最初は社員の中でも戸惑う人が多かった。

「コンセプトに反対の人はいないのですが、実際にどうなのか……という戸惑いはあった。入社以来“クライアントファースト”で仕事をしてきて、それ以外の価値をどう出せばいいのか。特にマネジャークラスは悩みます」と戦略コンサルティング本部マネジャーの込山努さんは言う。

戦略コンサルティング本部 マネジャー 込山 努さん

江川社長も「管理職がつらい思いをする」のは織り込み済みだったと話す。入社5、6年目までの若い人は「早く帰れ」と言えば素直に帰る。しかし会社が求めているのは、単に早く帰ることではない。10時間の仕事を8時間で終わらせる、つまり1.25倍の生産性である。若い社員が生産性はそのままに早く帰ればそのツケは管理職に回ってくるので、「つらいときはすぐに助ける」とトップからメッセージも発信した。

「PRIDEがきっかけで、顧客のみならず、キャリア、プライベートの3つのバリューを上げるというメッセージをもらったと思っています。戦略コンサルタントとして価値を出すことに最大限時間を使うために、プロセスを楽にしたい。もともと自動化ツールなどを独自で作っていたのですが、それがPRIDEの生産性アイデアコンテストで表彰されました」(込山さん)

効率は上がっても、ウエットな部分は必要だ。一体感を生むために込山さんのチームは、ランチは外で1時間一緒にとる。休日に、釣りやサバイバルゲームなど、だれかの趣味につきあう“アウティング”も行っている。

「僕はちょっと威圧感があるかもしれない。でも今は入社1、2年目の人が『込山さん、ここ間違ってます』と指摘してくれる。言いにくい空気がPRIDEのおかげでなくなった。仕事の手戻りも減り、この空気がクライアントバリューに直結するのです」

改革の進捗は数値化して共有し、生産性と時短への意識が浸透しているか、労働時間、女性の比率、離職率など、会社の“成績表”としてつきつけられる。

執行役員 人事部長 武井章敏さん

「売り上げは目標がある。でも早く帰れとも言われる。どっちですか? と聞かれますが、どっちもとるように言ってきました」。人事担当役員としてPRIDEを推進してきた武井章敏さんは言う。「コンサルたるものハードワークが当たり前」という風潮もあり、最初は逆風だった。

「とにかく毎日毎週毎月メッセージを出し続けた。8時間でお客さまの期待に応えられないのはプロフェッショナルではない。日本のプロ野球の選手ではなく、メジャーリーガーになってくれと」(武井さん)