▼京都大学大学院准教授 柴田 悠さんから
提言:都市部での待機児童の放置は日本全体にとって大きな経済的損失です

政府は2013年度から、保育定員を50万人分増やす計画を進めています。その計画に沿うと、13年度に常勤換算で24万人だった民間認可保育所保育士を、17年度末には35万人にまで増やす必要があります。

15年のデータでは、全産業の民間の常勤労働者の平均年収489万円に比べて、民間保育所(主に認可)の常勤保育士の年収は323万円で、166万円も低い。そのため、民間認可保育所保育士の年収を全産業平均にまで引き上げるとすれば、18年度からは、毎年約5800億円の追加予算が必要になります。

毎年5800億円となると、「そんな大きな財源はつくれない」と思われるかもしれません。

しかし、年収を全体平均にまで引き上げるくらいの抜本的な改善をしないと、保育士は十分に集まらず、結果的に保育定員増設計画も失敗してしまうでしょう。すると、都市部での待機児童問題は解決されません。

都市部での待機児童問題は、日本全体にとって大きな損失です。というのも、70年代以降、若い女性は地方から都市部に移住する傾向があり、00年代以降は都市部のほうが若い女性が多くなっているからです。

都市部に集まった女性たちが、保育所不足によって仕事も育児も困難な状況が続くと、日本全体にとって、女性の労働力が十分活かされず、出産意欲も十分活かされないことになります。つまり、ますます経済が停滞し、ますます少子化が加速します。

拙著『子育て支援が日本を救う』で試みた統計分析によれば、保育に予算を投入すると、保育士の雇用も増えて、母親も働けるようになるので、2倍の経済効果が見込めます(公共事業の経済効果はたった1倍)。しかも出生率も上がります。そして財源は、相続税などでつくれます。総理の英断を期待します。

市来朋久=撮影