投資信託の分配金は性質が違う

預金の金利が上がればうれしいし、喜んでいい。なぜなら銀行預金とは、正確にいえば、お金を預けているのではなく、われわれが銀行にお金を貸して、それを銀行がリスクをとっていろいろな企業に融資することで増やし、それで預金者に金利を払っているからです。

でも投資信託の分配金はそれとは性質が違います。高い分配金が支払われるとうれしくなってしまいますが、それは運用会社が自分の儲けを削ったわけではなく、投資家の資産(つまりあなたが預けたお金)が削られているだけです。その証拠に、たとえば基準価額が1万2000円の投資信託があったとして、ここから3000円の分配金が出たとしましょう。すると基準価額は9000円になり、分配金が出たあとは9000円で運用が続けられることになるはずです。それだけでなく、分配金は税金で約2割引かれてしまうことも知られていません。

ということは、10万円の分配金でも手取りは約8万円です。たとえば100万円を投資信託会社に預けて、それが1年後に120万円まで増えたとします。しかし10万円の分配金をもらうと、投資信託の基準価額は110万円に下がります。さらにもらった10万円の現金から約2万円、税金で引かれて支払われますから、手元に残る現金は約8万円。分配金をもらわなければ120万円のままなのに、もらったために約118万円に減ってしまうのです。だから分配金などもらわないほうがいいのですが、実際はみんな分配金をほしがる。これもメンタルアカウンティングの罠なのです。

大江英樹
大手証券会社で25年にわたり、個人の資産運用業務に従事。2012年9月にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学、資産運用等をテーマとし、寄稿や書籍の執筆、講演など幅広く活動を行う。『投資賢者の心理学』(日本経済新聞出版社)など著書多数。CFP、1級ファイナンシャルプランニング技能士。

構成=長山清子 撮影=山田 薫