「損をしたくない」という不安感が期待感を上回る
このような人間の思考のクセは、特に株式投資に大きく影響してきます。たとえば買った株が上がり始めたとしましょう。すると相反する2つの気持ちがわいてきます。つまり「まだ上がるかもしれない」という期待感と、「下がると嫌だ」という不安感です。しかし人間は損を嫌う気持ちのほうが強いので、損をしたくないという不安感が期待感を上回ります。そのため、本当はもっと儲けられたかもしれないのに、早めに売って利益を確保してしまう。
逆に下がったらどうなるか。やはり損を避けたいという心理になります。下がっている株はこれからも下がり続ける場合が多いので、早めに手放したほうがいいのですが、損を嫌うあまり、「今売ると損が確定してしまうから売りたくない」と思ってしまう。つまり「損切り」のタイミングを逃してしまうのです。
この下がっている株を売りそびれるという心理には、さきほどの「参照値」も関係しています。つまり人間は、自分が株を買ったときの値段を基準にしてしまうので、買い値より安い値段では売りたくないというわけです。
次に、保険と投資信託、銀行預金についても、「認知バイアス」という概念で説明できる現象があります。認知バイアスというのは、心の錯覚のことです。
まず保険に関する勘違いでよくあるのが、「お祝い金をもらえる保険はいい保険」という誤解です。でもお祝い金は、誰がくれるのでしょうか? 保険会社の社長がポケットマネーからくれるならうれしいけれど、これは自分が払い込んだ保険料のストックから支払われるものです。ですからまったく得ではないのですが、それでもなぜかお祝い金としてもらうとうれしい。これは明らかにメンタルアカウンティング(心のなかで別の財布になっている)という現象です。
これと似ているのが、投資信託の分配金を、銀行預金の金利と同じだと考えてしまうことです。