もちろん、個人の幸せを考えると、そういう視点が馬鹿げていると感じたり、ある種の不愉快な気分を生み出したりすることは、よく分かります。けれども、組織を運営し、維持し続け、かつ発展させなければならない立場にあれば、リスクの少ない選択肢を検討することは不思議なことではありません。

冒頭にも書きましたが、「今の状態だと、女性を採用することは、企業にとってリスクになる」と話しているのは、自分自身が企業にとってのリスクになるかもしれない、“明日は我が身”の女性人事担当者たちです。企業がライフイベントの変化に対応するようなったがゆえに、昔あった「結婚してすぐ辞めてしまうリスク」に替わり、「その対応負荷に、企業として耐えるリスク」が新たに生まれたのです。何十年前の職場に鎮座していた、いかにも頭の固そうな(もはや絶滅したと思われるタイプの)男性人事担当者の視座からの発言ではないところに、問題の奥深さがあるような気がします。

夫側と妻側の会社間にある不平等とは

女性が働きやすい、既婚女性が働きやすい、子育てをしている女性が働きやすい、そんな職場環境を、と言葉を並べて見てみると、ある違和感に気が付く人もいるでしょう。そう、この問題を解決すると想定され、実施される策の多くは『女性に向けられた、女性のための策』なのです。

何を当たり前のことを言っているのだとお叱りを受けそうですが、よく考えると、そこに大きな問題を含んでいることが分かります。

女性が働きやすい職場を作るためには、企業がそれ相応の負担をしなければなりません。そうすることで、働く人たちのパフォーマンスが向上し、結果的にプラスになる側面もあるのですが、やはり費用面からも体力のない企業にとっては厳しいことには変わりがありません。

一方で、男性が働きやすい、既婚男性が働きやすい、子育てをしている男性が働きやすい、そんな職場環境を、という男性を主語とした話はそもそもほとんど議論されませんから、企業も特に考えたりはしないし、リスクを感じたりもしません。もちろん介護などの理由で離職する男性も増えてきているので、今後は考える必要があるのでしょうが、それはまた別の話として、今回は置いておきます。