取引先に日参して受注を勝ち取る

当時は量販店でのお惣菜の販売が広まり始めた時期で、家で食事を作らない「デリカ化」が急速に進みつつあった。外食第2課は、その時代の流れに対応するための新しい部署。過去の実績やベースとなる数字を、自分たちでつくっていく必要があった。

そのときの上司は岡村さんたち部下を集めると、こう発破をかけた。

「お客さまたちの役に立てることを、自由な発想で、何でもやってみろ」

揚げ油の担当となった彼女は、一斗缶入りの商品を商用車に積みこんで、いくつもの店舗に通った。

女性とは異なり、男性は数字の評価にこだわりがち。焦っている部下には、「記録よりも記憶に残る仕事をしよう」と励ましている。

商品の採用を決定するのはバイヤーだが、「まずは現場の声がいちばん大事」と考え、バックヤードで働くパート従業員と仲良くなった。また、各店舗で集めた油のサンプルを自社の研究所で分析し、自社製品のメリットを数値化する。惣菜コーナーに立ってPOPを掲げ、お客に直接アピールしたことも一度や二度ではなかった。

「味の素の油は少し価格が高くても、その分だけ長く使えるのが特長でした。ランニングコストを安くできることを理解してもらうために、現場を毎日回ってはパートさんを集めて講習会を開き、サンプルの分析結果の数値を見てもらうことを繰り返したものです」

競合他社が価格を下げて対抗するなか、パート従業員や来店客を味方につけて商品の採用を勝ち取った。その経験は、彼女に「営業」という仕事の醍醐味(だいごみ)を感じさせた。

「新人の営業部員を見ていると、決定権のあるバイヤーさんにばかり気を使い、周りが見えなくなっていることがよくあるんです」と岡村さんは話す。

「でも、行きづまったり困ったりしたときこそ、お店に行ってお客さまの流れを見て、パートさんや主任さんの話を聞く。それがこの仕事の基本だということを身に染みて実感しました」