「あとは任せた」で踏ん切りがついた

2月中旬になって、筒井義信社長から電話があり、「尾田さん、来年も働いてもらうから」と言われる。何の話かさっぱりわからず、口から出た言葉は、「すみません。私、今年で定年なんです」。

「われながらとんちんかんな受け答えですね(笑)。役員の話とわかってからも、『どうしようか』とちょっと考えました」

瞬時、間が空いた。尾田さんの頭の中をよぎったのは「ここで私が断ったら『せっかく役員に推しても女は断るしな』と思われ、もしかしたら後輩の女性が役員になる次の道がなくなるかもしれない」ということだった。そこまで考えて「はい」と答えた。

キティちゃんの大ファン。ハンコなどの小物入れとUSBホルダー。役員になったときのお祝いにもらったペンにもキティちゃんのチャームが。

それでもまだ迷っていた。定年を前に「やれることはやった。あとは後輩に任せよう」と思っていたから、「これから何をやればいいのだろう」と悩んだのだ。

そんなとき、冒頭のプロジェクトを陰で支えてくれた当時の黒田正実専務から出向挨拶の封書が届いた。その中に「あとは任せた」と手書きの文字が。

「任せられたか、と思ったとたん、役員になったら、それをやろうと気持ちが固まりました。最後に託された重要な仕事を私もきちんとやり遂げ、次に伝えていくのがやはり上司の役割だと思うんです」

役員になって困ったのが着るものだった。人にあげたスーツを今さら「返して」とは言えない。

「最近よく服を買っています」

笑いながらそう話す尾田さん。最初の失敗も服にまつわるものだ。