提供するのは「コンテンツ」ではなく「体験」

【原田】事業が大きくなると、エンドユーザーの気持ちを想像することはおろか、エンドユーザーの存在すら忘れてしまうこともあるのではないでしょうか。

【村本】サービスを提供する側の都合ばかり考えるようになってしまう、ということですよね。そこでマーケターの出番です。マーケターの仕事は、エンドユーザーの気持ちをくみ取ってサービスに反映させることですから。実はdTVで、ニュースの提供を始めたばかりですが、真っ先に使って「ここが使いにくい」と意見を出すのは私なんですよ。

【原田】デジタルの活用というと、どうしても効率化が先に立ち、「情緒」や「こだわり」といった部分が置き去りにされるイメージがありますが、まったく違いますね。

【村本】確かに「デジタル」が独り歩きすると、そうなりがちです。もちろん無駄なことは効率化すればいいですが、私たちが考える動画のデジタル配信は、映画を見て泣いたり怒ったりハラハラしたりという情緒的なものを、どう効率的に届けるかに尽きるのです。膨大な数の作品の中から、見る作品を選び出すのは大変ですから、そうしたプロセスは効率化したい。でも、最終的に届けるのは感動や喜びです。私たちが携わる映像配信サービスで提供するのは、「コンテンツ」ではなく、「体験」だと考えています。

私たちがこのサービスを始めたころは、従来型の携帯電話(ガラケー)が中心でしたが、あっと言う間にスマホやタブレットが出てきて、テレビをネットにつないで見る形も広がっています。2020年にスマホがどうなっているかなんて、誰にも想像できません。だからこそおもしろい。私たちの持つ作品を楽しんでもらえる可能性が、どんどん広がりますから。どんな画面で、どうやって見るか。手法や手段は変化しますが、映像を見て楽しみたい人は確実にいます。目先にとらわれるとブレてしまう。作品を作って楽しんでもらうことが私たちの領域であることに、変わりはありません。

■インタビューを終えて
村本さんはいつお会いしてもエネルギーを感じさせる活き活きとした方なのですが、軽やかにキャリアを広げてきた一方で、いつも目の前のことには全力で集中し、成果を上げていく。その結果として、お仕事の領域が広がっていらっしゃる印象を受けます。好奇心と集中力はこんなふうに両立できるのだ、ということを私自身も学ばせていただいています。村本さん、これからも自由に越境し続けてくださいね。本日はありがとうございました。(原田博植)
原田博植(はらだ・ひろうえ)
株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 アナリスト。2012年に株式会社リクルートへ入社。人材事業(リクナビNEXT・リクルートエージェント)、販促事業(じゃらん・ホットペッパー グルメ・ホットペッパービューティー)、EC事業(ポンパレモール)にてデータベース改良とアルゴリズム開発を歴任。2013年日本のデータサイエンス技術書の草分け「データサイエンティスト養成読本」執筆。2014年業界団体「丸の内アナリティクス」を立ち上げ主宰。2015年データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー受賞。早稲田大学創造理工学部招聘教授。

構成=大井明子 撮影=岡村隆広