進化のきっかけは「壊す」投げかけ

【原田】世の中の変化や技術の進歩に対して、的確に進化し続けるのは大変です。

【村本】進化し続けるためには、前と同じことをしないのが一番いい。でも人間はどうしても、過去に成功したことを、繰り返したくなります。そこをあえて、壊して次に行こうとしなくては。

【原田】過去に執着せず、積極的に壊していくことはチームリーダーとしても意識されていますか?

【村本】はい。意識してチームに、「壊す」投げかけをしています。何かチャレンジして、うまくいったら、その成功は認めて喜び合いますが、すぐに「次」を考えます。

【原田】「壊す」投げかけは、どんなふうにされていますか?

【村本】頭ごなしに言われると反発するかもしれませんが、「ユーザーから見ると、まだここは足りないでしょう」という言い方をすれば、理解しやすいはず。常にユーザーの視点でものごとをとらえ、チームに伝えるようにしています。

可能性を生み出す“風任せ”

【原田】村本さんはこれまで、キャリアで迷われたことはありますか?

村本理恵子(むらもと・りえこ)さん。エイベックス・デジタル株式会社 常務取締役 デジタルビジネス本部 本部長、エイベックス通信放送株式会社 取締役、株式会社UULA 取締役。時事通信社にて世論調査分析に携わる。専修大学にて経営学部教授としてマーケティング戦略を研究。2000年株式会社ガーラ 代表取締役に就任し、ネットコミュニティビジネスの立ち上げを行い、2001年ナスダックジャパン(現在の新ジャスダック)に上場。同年ウーマン・オブ・ザ・イヤー ネット部門を受賞。2007年より、エイベックス・グループにて、「レッドクリフ」の宣伝戦略立案、「BeeTV」立ち上げと立ち上げ後の事業戦略、マーケティング戦略、編成戦略策定に携わる。エイベックスのデジタル事業を推進中。

【村本】迷ったことはないですね。キャリアについて、プランを立てたこともないんです。計画を立てても、その通りに行くとは限りません。結局、現実とギャップが生じて、ストレスになってしまう。「楽しそうだから、次に行ってみよう」という風任せですね。

それに、将来を設計しない方が、可能性が生まれる気がします。技術の発達に伴い、消える仕事がたくさんあると言われていますが、一方で、新たに生まれる仕事もたくさんあるはずです。私も初めて映画の宣伝の仕事をしたときは、そこで話されている用語すら分かりませんでした。でも、分からないことは聞けば何とかなる。道を決めず、柔軟でいると、新しい仕事でも「やってみようかな」という気持ちになります。昔と違って転職も当たり前になっていますし、自分で選択肢や出会いを作ることができる時代です。

【原田】確かに、道を決めてしまうことは、ほかの可能性を捨てることにもつながります。

【村本】自分自身、他人、会社、サービスなど、すべてに対して「こうあるべき」という「べき論」を捨てることが必要だと思います。「こうあるべき」を持つと、考え方が固定化してしまい、変化できない。「べき」を捨てて、柔軟に考えたいですね。