節税のためなら労力を惜しまない

会社が継続して取引を行っている相手先に対して商品の売買をする際、通常、事務処理の簡便化を図るために、代金をその都度決済するのではなく、一定期間の取引をまとめて集計して、一度に請求書などを発送して代金決済するということが行われます。

日本の商習慣ではその締め日が毎月15日や20日であることが多く、「15日締め、25日請求」や、「20日締め、月末請求」という設定がよく見られます。例えば2月21日から3月20日までに納品された商品を一月分まとめて3月31日に請求書を発送したりします。このような締め日が月中にある企業が末日決算にすると、決算の都度、21日から末日までの納品分を集計して経理処理を行わなければならず、手続きが煩雑となります。締め日に合せて20日を決算日にすれば事務負担が減るのです。

おそらくキーエンスも締め日の関係で過去からずっと決算日を3月20日にしてきたと考えられますが、それがデメリットとなることがあります。例えば法人税率が軽減される際、新しい税率は4月1日から開始する事業年度より適用されます。それでは3月20日決算の場合、軽減税率が適用されるのは翌年の3月21日からとなり、通常の3月31日決算の企業に比べてほぼ1年間にわたって高い税金を払い続けることとなります。

キーエンスはその事態を回避するために、2012年4月1日から開始する事業年度より法人税率が引き下げられた際には、変則決算で決算日を2012年6月20日に変更し、それ以降は軽減税率が適用されるようにすることで節税を果たしました。その翌年は3月20日に決算日を戻したのですが、同様の理由で2015年も節税目的で6月20日に決算期変更しています。その結果、変更をしない場合に比べて、9カ月間にわたり法人税の実効税率が2.5%程度軽減されることとなりました。

3月20日決算の企業は他にもたくさんあります。しかしキーエンスのように節税目的で決算日を変更する会社はなかなかありません。決算日の変更には、多大な労力とコストを要するからです。たった2.5%税率が変更になるだけでも、キーエンスの場合は利益が非常に多いため、同様の利益水準が続けば約36億円の節税となります。決算日変更にかかる労力やコストと比べても、節税効果が大きいからやるべきだと判断したに違いありません。