「雇用の質」を競う状況になる

人口減少を原因とした人手不足は、長期的に見て経済にダメージを与えることは間違いないが、中期的には雇用環境の改善や賃金アップに結び付く可能性が高い。正規・非正規を問わず、企業が「雇用の質」を競う状況はもう目の前だ。ではこれらマクロの動きにすべての企業は対応できているのか。

私が実際に見聞きする事例として、企業の変化を感じる点に、「働く女性の扱い」がある。

イラスト=Yooco Tanimoto

私は普段FPとして住宅購入の相談に乗っている。来店する夫婦に働き方を聞くと以前と状況が変わってきたように思う。3年前なら、「産休・育休は取れません」という話は珍しくなかった。最近ではそんな話は減り、代わりに増えたのは「時短勤務がつらい」という不満だ。

勤務時間は短いのにフルタイム勤務時と同じ成果が求められる一方、給料は少なくモチベーションを保つことが難しい。早く帰るうしろめたさもある。

肩身の狭い状況で働くくらいなら辞めてしまおうか……と考える人も少なくない。しかし、人手不足で人材の囲い込みが発生している状況で、子育てと仕事を両立させながら働いている母親に厳しい企業は減っていくのではないか。

一部とはいえ企業がリスクを取ってコストをかけて正社員化を進めている状況で、賃金の低い非正規雇用労働者に重要な仕事を任せ、「使いにくい従業員」を冷遇する企業は人手不足と雇用の流動化を甘く見ているとしか思えない。人手不足で店舗閉鎖や営業時間短縮に追い込まれた「和民」や「すき家」の運営会社の業績悪化は記憶に新しい。

先のような夫婦に、私はこんなアドバイスをする。

「あなたが入社したころ、産休・育休を取得している先輩はかなり少なかったのでは? 時短勤務が終わるころには家庭も会社も状況は変わっているはずです」

これは希望的観測も含んでいるが、すでに一部企業は動き始めている。働く環境が今後どのように変化していくか、あらためて注目したい。

中嶋よしふみ
ファイナンシャル・プランナー(FP)、シェアーズカフェ・オンライン編集長。住宅・保険・投資等のアドバイスのほか、ビジネス分野の情報発信を行う。

イラスト=Yooco Tanimoto