ここ数年、非正規社員を正社員化する動きが起こっている。2014年にはスターバックスやユニクロ、ここ最近では住友生命保険がこうした動きをみせている。全く違う業態で同じ動きがあったことに、どんな意味があるのか?

「正社員になりませんか?」という企業が増えてくる!?

先日、住友生命保険が契約社員2000人のうち、フルタイム勤務の600人を正社員化するという報道があった。2014年はスターバックス コーヒー ジャパンとユニクロ(ファーストリテイリング)も正社員化で話題になるなど、非正規雇用者を正社員化する動きが起こっている。

バブル崩壊時、全体の2割程度だった非正規雇用労働者の割合は、厚生労働省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2014年)によるとおよそ4割になった。一部企業の正社員化はそれと逆行しているが、金融業と小売・飲食業、全く違う業態で同じ動きがあったことにどんな意味があるのか。

大手企業の正社員化・無期雇用化

非正規雇用労働者は低コストであることが企業にとって最大のメリットだが、賃金が低く、雇用が不安定であれば仕事を辞める際のハードルも低い。緻密な業務が求められる金融機関であれば、手間とコストをかけて研修を施した従業員が辞めてしまうデメリットは大きい。つまり、メリットよりもデメリットのほうが上回りはじめている。

金融機関は業務の緻密さはもちろん、お金を扱う点やコンプライアンスなど求められる能力・モラルの水準は高い。今後はマイナンバーへの対応でますます業務は複雑化し、対応できる能力を持った人員は限られ、定着率を上げる必要がある。つまり正社員化は雇用の流動化と23年ぶりの高い有効求人倍率が生んだ人員の囲い込みだといえる。大手生保各社は契約社員の無期雇用化をすでに表明しており、これらは決して偶然の一致ではない。

ではスターバックスとユニクロはどうか。小売・飲食業は賃金が低く離職率も高い一方で多数の従業員を必要とする。人材の確保は保険会社とは違った意味で困難だ。

「雇用の質」を競う状況になる

人口減少を原因とした人手不足は、長期的に見て経済にダメージを与えることは間違いないが、中期的には雇用環境の改善や賃金アップに結び付く可能性が高い。正規・非正規を問わず、企業が「雇用の質」を競う状況はもう目の前だ。ではこれらマクロの動きにすべての企業は対応できているのか。

私が実際に見聞きする事例として、企業の変化を感じる点に、「働く女性の扱い」がある。

イラスト=Yooco Tanimoto

私は普段FPとして住宅購入の相談に乗っている。来店する夫婦に働き方を聞くと以前と状況が変わってきたように思う。3年前なら、「産休・育休は取れません」という話は珍しくなかった。最近ではそんな話は減り、代わりに増えたのは「時短勤務がつらい」という不満だ。

勤務時間は短いのにフルタイム勤務時と同じ成果が求められる一方、給料は少なくモチベーションを保つことが難しい。早く帰るうしろめたさもある。

肩身の狭い状況で働くくらいなら辞めてしまおうか……と考える人も少なくない。しかし、人手不足で人材の囲い込みが発生している状況で、子育てと仕事を両立させながら働いている母親に厳しい企業は減っていくのではないか。

一部とはいえ企業がリスクを取ってコストをかけて正社員化を進めている状況で、賃金の低い非正規雇用労働者に重要な仕事を任せ、「使いにくい従業員」を冷遇する企業は人手不足と雇用の流動化を甘く見ているとしか思えない。人手不足で店舗閉鎖や営業時間短縮に追い込まれた「和民」や「すき家」の運営会社の業績悪化は記憶に新しい。

先のような夫婦に、私はこんなアドバイスをする。

「あなたが入社したころ、産休・育休を取得している先輩はかなり少なかったのでは? 時短勤務が終わるころには家庭も会社も状況は変わっているはずです」

これは希望的観測も含んでいるが、すでに一部企業は動き始めている。働く環境が今後どのように変化していくか、あらためて注目したい。

中嶋よしふみ
ファイナンシャル・プランナー(FP)、シェアーズカフェ・オンライン編集長。住宅・保険・投資等のアドバイスのほか、ビジネス分野の情報発信を行う。