メーカーらしからぬ決算書
従業員に日本一高い給料を支払っているだけにキーエンスの収益力は驚異的に高いレベルにあります。2015年3月期の有価証券報告書で開示されている「主要な経営指標等の推移」をもとに5年分の連結ベースの売上高および当期純利益率をグラフにしてみましょう。
売上高が年々ものすごい勢いで増えており、さらに利益率も高まっていることから増収増益で理想的なパターンだと言えます。注目すべきはそれだけではありません。その利益率自体が高いのです。2015年3月期は当期純利益率で36%も記録し、それ以外の期でも30%前後を達成しています。これは異常に高い水準です。2016年1月15日に「平成27年企業活動基本調査速報-平成26年度実績-」が経済産業省によって発表されましたが、それによれば全国における電子部品・デバイス・電子回路製造業の当期純利益率の平均は2.9%です。キーエンスの利益率はそれを12倍も上回っていることになります。通常のメーカーと同じように事業を営む限り、36%もの高い当期純利益率は不可能です。
会社の財政状態を示す貸借対照表からも驚くべき点が見受けられます。貸借対照表の読み方のポイントは連載第4回「なぜ堅実なトヨタが19兆円もの借金を負ったのか -バランスシートの見方を学ぶ」をご参照いただければと思いますが、2015年6月期の有価証券報告書によれば、同期末時点の貸借対照表では資産の部のうち流動資産が82%も占め、固定資産は18%に過ぎません。また、純資産の割合が95%と非常に高く、負債はたったの5%です。
貸借対照表のみを見た場合、筆者にはこの会社はコンサル会社かIT企業に思えます。固定資産の割合があまりにも低いからです。通常のメーカーの場合、工場や土地、機械装置などを持っていたり、関連会社への投資などをしたりするため固定資産の割合はもっと高く、筆者の経験から言うと50%以上となることが多いです。
また、キーエンスは純資産の割合も驚くほど高いです。メーカーであれば設備投資にかかる資金需要も多額に上るため、どうしても借金の割合が増えます。「平成27年企業活動基本調査速報-平成26年度実績-」によれば電子部品・デバイス・電子回路製造業の自己資本比率の平均は45%ですが、キーエンスはその倍以上の95%です。当然ながら無借金です。過去から高い利益率を保持し続けてきた結果、利益の蓄積である利益剰余金が相当たまっているのです。
十分に余裕のある財政状態と経営成績を誇っているからこそ、社員に日本一高い給料を支払えるのでしょう。では、なぜこれほどまでに業績が良いのでしょうか。メーカーらしからぬ決算書、その理由を探っていきましょう。