人生のどん底は仕事と子育ての両立時代にやってくる。

「経営管理部に外線電話が鳴るのは珍しくて、たいてい保育園からでした」

子どもが熱を出したので迎えに来てほしいという電話。最勝寺さんは部署のみんなに迷惑をかけることを謝って退社し、保育園に急行した。担当の先生に抱きかかえられているわが子は母の姿を見つけると、真っ赤な顔をもっと真っ赤にして泣きながら手を伸ばす。

「さっきまで、なんで熱なんか出すんだろうとか、仕事の途中で呼び出されるのは困るな……とか思っていた自分が本当に嫌になって、子どもを抱きかかえると涙がボロボロこぼれました」

その後、離婚したときは仕事が手につかないほどの精神状態になったこともあった。けれど子どもが手を離れ、思う存分仕事に力を注げる今、役員にふさわしい心持ちを大事にする。

「当社の社是にある『心を高める』という言葉が好きです。自分の背筋が伸びる気持ちがしますし、周りを思いやる意識が強くなるんですよ」

LIFE CHARTS

■Q&A

 ■好きなことば 
心を高める

 ■趣味 
推理ドラマの観賞

 ■ストレス発散 
3日悩んで忘れる。ポジティブシンキングで良かったこと探しをすると、どん底と思っていたこともそうではないことに気づく。

 ■愛読書 
『稲盛和夫の実学』


最勝寺奈苗(さいしょうじ・ななえ)
KDDI理事 コーポレート統括本部 経営管理本部 副本部長。
1964年千葉県出身。87年同志社大学文学部卒業後、出版社勤務を経て88年第二電電(現・KDDI)入社。経営管理部、IR室長、財務・経理部長などを経て、2014年理事に就任。

撮影=貝塚純一