結果として5年近く担当を続け、彼女はこの医師からも次第に信頼を得ていった。苦い思い出だが、それを力へと変えたのだ。

「最後の面会時、お花までいただける関係を築けたんです。あのときの選択がなければ、今の自分はなかったかもしれません。女性のMRが増え始める過渡期でしたから、多かれ少なかれ、みなが同じような体験をしていると思いますけれどね」

特約店のMS(医薬品卸販売担当者)との情報交換も大切な仕事。さまざまな人とのコミュニケーション能力が求められる。

そうして福岡で5年を過ごした後、彼女は本社の医薬研修室へ異動した。新人MRの教育研修を担う部署で、当時としては最年少の抜てきだった。

それは彼女のキャリアにとって、次なる転機となった。医療や薬の知識、人間の命に携わる仕事をするうえでの倫理観やマナー――それらを半年かけて教えた4年間で、600人以上の新入社員と出会うことになったからだ。

チームリーダーとして働く今、その経験が彼女の大きな財産になっている。

「私のチームでは、部下にその日の成果報告を強要しないんです。むしろ普段の会話の中で、課題に思っていること、困っていることなどを、さりげなく聞くように心掛けています」

彼女がちょっとした会話の中で注目するのは、「大きな成果の手前にある成果」だという。