男性が圧倒的多数を占める医薬品業界。彼女が壁を乗り越え、男性部下6人を率いるリーダーになるまでの軌跡を追った。

貞光さんが、武田薬品に入社したのは2002年。毎年、数百人の社員が入社する同社で、当時は女性のMRが全国でようやく100人を超えた頃だった。医薬品の営業の現場は、現在に至るまで、男性の割合が非常に高い職場だ。取引相手である医師も同様である。新人研修を終えた彼女は、福岡の営業所で病床数の多い基幹病院を担当することになった。

武田薬品工業 医薬営業本部 東京支店東京第二営業所 第四チームリーダー 貞光美貴さん

「最初は緊張して足がすくみました。医局のドアを開けられず、固まっていたのをよく覚えています」

そんな中、彼女がとりわけ忘れられないのは、あるベテラン医師から「担当を替えろ」と告げられた経験だ。

「上司と一緒に説明を終えた後、『新人で、しかも女が担当になるとは、武田はうちを何だと思っているんだ』と目の前で言われたことがあって――」

帰り道、上司から「どうする? 担当を続けるか?」と問われ、彼女は「続けさせてください」と強く答えた。

「悔しくて泣きました。でも、変えられない性別についてそう言われたことが引っかかって。もしここで交代してしまったら、今後もずっと逃げ続けてしまう。それは嫌だという新人なりの意地でした。担当を続けて、私のことをわかってもらうしかない」