男はなぜ人に相談できないのか

――誰かに話を聞いてもらうって、大切なことですね。でも男性って、あんまり相談しないじゃないですか。「悩みがあるなら聞くよ?」と女性が言っても、本心を打ち明けない。自分1人で抱えこんで、悩んで終了、という人が多いような気がします。

【田中】ええ、多いですよ。自殺対策基本法ができたので、その関連で調査したことがあります。「悩みがあるときに人に相談するのがはばかられる」というのは、中高年男性に非常に多いです。“男のプライドの問題”というのは、弊害としてありますね。

これには2つ理由があります。まず「人に弱みを見せられない」。人に相談したら、弱い側になってしまうじゃないですか。もう1つは、「解決しない問題を相談しても仕方ない」という発想です。例えば、会社にいやな上司がいると誰かに相談しても、明日もその上司はいるじゃないですか。解決しない。非常に合理的に考えるわけです。

僕も、30まではその発想だった。だからよく分かるんです。ただ、こういうことを人に言う立場になったから、あるとき他の人に相談してみたんですね。そうしたら、「その問題は解決しないけれども、気が楽になる」という効果が分かったんですよ。

――男性って、そういうレベルなんですか……?

【田中】そういうレベルです。でも僕自身、誰かに聞いてみるまでは、そんなことも分からなかったんです。「何かイヤなことがあったときに、人に言ったらスッキリする」という、それが分からなかったんですよね。やったことがなければ、男性は分からないと思います。

【川崎】なんか、話を聞いてたら悲しくなっちゃいますね……。

【上】『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』川崎貴子(ベストセラーズ)【下】『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』田中俊之(KADOKAWA)

【田中】そういうわけで男性は相談できないので、僕が今、市民講座をやるときには、必ず「雑談」のワークを入れるんです。「人の話には割り込まない」「人の話を否定しない」というルールを2つだけ設定して、雑談してもらう。

【川崎】男性はそうですよねぇ! 私は男性管理職向けに、女性社員を育てるための講座をよくやっているんですけど、とにかく「聞くスキル」を延々とやるんです。

【田中】それは僕が今言ったのと同じことを逆からやっているんですよね。人の話に割り込んでしまうとか、人の話を否定するというのはつまり「人の話を聞かない人」なんですよ。

この前、市民講座でワークショップをやったときに、若い女性が男性上司から言われてショックだったという話をしてくれました。「仕事を辞めたいんです」と相談しに行ったら、「なんで辞めるなんてことを考えるんだ」という風に言われたと。「辞めたい」っていう気持ちを受け入れてくれるんじゃなくて、「辞めるって発想自体間違ってる。はい、話終わり」となってしまったと……。まさに“話を聞いてもらえなかった”という話なんですね。なぜこの能力が欠けているのか分からないんですが、一般論として、本当に男性は人の話を聞けません。これは会社においては大変な問題なんじゃないですか?