“女のプロ”川崎貴子さんと“男性学”が専門の田中俊之さんの対談、最終回は「共働き家庭で男性に家事を主体的にやってもらうにはどうしたらいいか?」「男はなぜ相談できないのか?」について話し合います。

女性専門の人材コンサルティング会社ジョヤンテ社長で“女のプロ”の異名を取る川崎貴子さんと、「男性学」を専門とし、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』などの著書がある武蔵大学助教の田中俊之さんの対談連載8回目。最終回となる今回は「共働き家庭で男性に家事を主体的にやってもらうにはどうしたらいいか?」という問いに、田中さんは「家事協力について、男性の主体性に触れるのはむしろマイナス」と答えます。その心は……?(本文敬称略)

家事を主体的にしてくれない夫、どう伝えたらいい?

――女性が結婚や出産と仕事を両立しようと思うと、パートナーの家事協力が必須になってくると思うんです。その時「どうやったら夫が家事をやってくれるようになるのか、まったく分からない」という悩みをよく聞きます。結局自分がやるしかない、と家事を抱え込み、パンクしてしまう女性が大勢いるんですが、どうやって夫に伝えたらいいのでしょうか。また男性から見て「こういう風に言われたら自分も家事をやろうと思える」といったコツはあるのでしょうか。もう1つ、パートナーの家事協力についてよく妻から出る不満が「主体性がない」という話です。「手伝う」としか言わず、「自分からやる」と言ってくれないという話もよく耳にします。その辺の解決法があったらぜひ伺いたいです。

【ジョヤンテ社長 川崎貴子(以下、川崎)】アメリカの例ですが、家事分担についてもめている共働きの夫婦にコンサルが入って、それをジャーナリストたちが取材したという本がありました。夫婦2人とも働いているのだから、男女どちらも家事はやる、というのが前提です。(仕事と家庭の)比重もそれぞれ違うし、仕事の忙しさにも差があるだろうし、単純に2つに割るわけにはいかない。分け方は夫婦によってさまざまだったのですが、そこで「男だからこれ」「女だからこれ」と家事分担を決めた夫婦がダメだったんですよ。双方不満が出て、非常にもめたんです。

実は家事や育児って人によって得意分野があるんです。それなのに「男だからあなたは庭の芝刈りで、女だから料理ね」といった分け方をした夫婦はフラストレーションがたまってしまった。よくよく聞いてみると、彼女はもともとスポーツ選手で、芝刈りがすごいストレス解消になっていた(のに夫に任せてしまった)と。こういう話をコンサルがひとつひとつ洗い出して解決していくんですけど、聞いていて「これは、仕事の分担を決めるのと一緒だな」と思いました。

――具体的に、どうやって割り振っていくのがいいのでしょうか。

【川崎】洗濯は何分、食器洗いは何分、ゴミ捨ては何分……というように、家庭内の家事の各作業が何分くらいかかるのかを、まず全部洗い出すんですね。全部の作業を見える化して、それを見てそれぞれ担当を割り振って、3か月やってみてイヤだったらまた改善しましょうね、という風に変えていく。その人の個性にあったものを無理なくやっていくというのがまずは大事かなと思いますね。

ジョヤンテ社長 川崎貴子さん

もう1つ、主体性の問題、特に育児に関して。(妊娠・出産を経ない)男性はスタートダッシュが遅れている分、主体的に育児に取り組むというのはなかなか難しいんですよ。うちは子どもが2人いるんですが、どちらも生まれて3週間で私は仕事に復帰しているので、その後旦那が全部育児を主体的にしているわけです。すると私が「手伝おうか?」みたいな感じになるんですね。要は、どっちがリーダーになるかというだけの話。リーダーを決めたほうが楽です。

女性には“察する”機能がありますけど、男性にはないと思った方がいい。「察して!」というほうが間違っています。まずはやるべきことをタスクにするというのが大事なんです。次に、その導線を伝える。「このあとはこれをやる、このあとはこれをやる、このルールでよろしくね!」って。

――なるほど、料理を作りながら気がついたところを片付けて、子どもがぐずり出しそうだからあやして……といった、マルチタスクかつ状況判断をしながらの家事は、男性に期待すべきではないということですね。

【川崎】家事って、すごく臨機応変さが必要なものですよね。それは女性が得意とされている分野です。その分、女性は何か1点に集中して研究したりというのが非常に苦だったり、優先順位をつけるのが下手という側面もあります。だからお互いのいいところを見ながら、家事ごとにリーダーを決めるんです。料理リーダーはどっちなのか、洗濯リーダーはどっちなのか……というように。

女性がリーダーになった家事については、“察する”ことを前提にせず、「ちゃんとこのラインでやってください」とか、「このやりかたでお願いします」「あとは自分のやり方でやっていい」など、きちんと具体的にやるべきことを伝える。もし相手が動いてくれないとしたら、それは夫が悪いのではなくて、自分の伝え方、上司としての、リーダーとしての伝え方が悪いと思った方がいいと思います。家庭内で、“できない上司”になっちゃだめです。会社で上司が部下に「私の機嫌悪いのを察してよ!」なんて言ったらマズいじゃないですか。それは家庭内でも一緒です。

家事協力で、男の主体性に触れるのはむしろマイナスである

【武蔵野大学 社会学博士 田中俊之(以下、田中)】僕は、主体性のことは言わないほうがいいと思うんですよね。だってこれは職場において、女性に対して浴びせられてる批判と同じなんですよ。「女性は昇級する意欲がない」とか「彼女たちは主体性がない」とか。「従って、女性の管理職比率が低いのは当然である」と続く。これは、男と女を分けて分業している社会の残念な宿命なんですよね。

先ほど川崎さんも指摘されていましたが、「これからは女性が~」と言いながら、結局は「結婚して、子供を産んでもらいたい」といった親の願いの中で女性たちは育ってきているし、教育でもそういうことをやってきてるわけじゃないですか。だから、彼女たちに出世意欲がなかったり、仕事での主体性がなかったとしても、それを「女性だから」という責任にしちゃったら何も改革できないんですよ。

「現状をこれからどうするか?」という話をしなければいけないときに、「主体性がない」と批判してしまったら、当事者である女性はすごく意欲がなくなると思うんですね。だからそこはエンパワーメントしなくちゃいけない。国もそうだし、職場もそうだし、周りの人が応援して力をつけるようにしてあげていく側面があるわけじゃないですか。だから、男性は家事能力が低いとか意欲がないというのも、その裏返しなんですよ。片方だけを責めるのは、非常にアンフェアな議論になってしまってよくない。

武蔵大学助教 田中俊之さん

男性は仕事だけしていればいい、それで親も周りも安心する……というのが今の社会の状況です。だから、家事育児に主体性がない人が大量に生まれるのは当然なんです。この人たちをどうやったら家事育児に主体的に取り組むようにしていけるかということは、国や企業や社会の責任です。

しかし家庭のことというのは、社会的に“公のこと”ではないため、個人に対して「勝手に主体性を持ってください」という話になりがちです。でも本当は分業している社会の弊害なんです。つまり、女性の社会進出に対して支援が必要ならば、男性の家庭進出にもそれなりの応援がないと成り立たないということです。

男性の家事に対して「主体性がない」という批判をするのは、「女性の管理職が少ないのは、女に主体性もなければ意欲もないからで、現状の男ばっかりの管理職の社会は正しい」と考えている人に力を与えることになります。だから、愚痴としては気持ちよくても、言わないほうがきっと、長期的には女性にとっても利益があるはずですよ。

家庭で男性ががんばることを、もっとエンパワーしないといけない

――男性の専業主「夫」も増えているし、子育てに真剣に取り組む父親も増えています。家庭で男性ががんばることに対しても、それこそ誰かがエンパワーしてあげなくちゃいけないと思うのですが、男性側から見てどのようにするのがいいのでしょうか。

【田中】女性には、すでにそういうことを川崎さんがやってらっしゃると思うんです。面談して、これから昇級していこうとか、60歳まで働くということでプランニングしていこう、など、女性の相談にのってあげていますよね。

男性にも同じように、「相談」が必要だと思います。もしかするとそれは、パパ友なのかもしれない。会社にそういう仕組みが組み込まれていれば、なおいいです。とにかく「自分が仕事や会社以外のところにパワーを割り振ろうとしたとき、どうすればいいか?」というのは難問なので、これを自己解決せよというのは無理な話です。

【川崎】まったくその通りだと思います。

【田中】コンサルティングはお金がかかることですから、難しければパパ友を作って知恵を授かるとかでもいいんですよ。こういう話をしたときに、「じゃあなんですか、女性はパパも育てなくちゃいけないんですか?」という不満が出てくるんですけど、それは先ほども述べたように、職業という領域で力を上手く発揮できてない女性をサポートしましょうという話と同じなんですね。男性が家庭に行くんだったら、それに対してサポートは必要なんです。自分だけで解決はまずできない。「家庭で頑張る男性の問題に対してはサポートが必要である」と、まず認識を変えなければなりません。

ただ、今はまだその段階に達していないのも事実です。どういう講座をやりましょうかとか、どういうコンサルをしましょうかとか、そういう話にすらなっていない、ということだと思います。

男はなぜ人に相談できないのか

――誰かに話を聞いてもらうって、大切なことですね。でも男性って、あんまり相談しないじゃないですか。「悩みがあるなら聞くよ?」と女性が言っても、本心を打ち明けない。自分1人で抱えこんで、悩んで終了、という人が多いような気がします。

【田中】ええ、多いですよ。自殺対策基本法ができたので、その関連で調査したことがあります。「悩みがあるときに人に相談するのがはばかられる」というのは、中高年男性に非常に多いです。“男のプライドの問題”というのは、弊害としてありますね。

これには2つ理由があります。まず「人に弱みを見せられない」。人に相談したら、弱い側になってしまうじゃないですか。もう1つは、「解決しない問題を相談しても仕方ない」という発想です。例えば、会社にいやな上司がいると誰かに相談しても、明日もその上司はいるじゃないですか。解決しない。非常に合理的に考えるわけです。

僕も、30まではその発想だった。だからよく分かるんです。ただ、こういうことを人に言う立場になったから、あるとき他の人に相談してみたんですね。そうしたら、「その問題は解決しないけれども、気が楽になる」という効果が分かったんですよ。

――男性って、そういうレベルなんですか……?

【田中】そういうレベルです。でも僕自身、誰かに聞いてみるまでは、そんなことも分からなかったんです。「何かイヤなことがあったときに、人に言ったらスッキリする」という、それが分からなかったんですよね。やったことがなければ、男性は分からないと思います。

【川崎】なんか、話を聞いてたら悲しくなっちゃいますね……。

【上】『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』川崎貴子(ベストセラーズ)【下】『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』田中俊之(KADOKAWA)

【田中】そういうわけで男性は相談できないので、僕が今、市民講座をやるときには、必ず「雑談」のワークを入れるんです。「人の話には割り込まない」「人の話を否定しない」というルールを2つだけ設定して、雑談してもらう。

【川崎】男性はそうですよねぇ! 私は男性管理職向けに、女性社員を育てるための講座をよくやっているんですけど、とにかく「聞くスキル」を延々とやるんです。

【田中】それは僕が今言ったのと同じことを逆からやっているんですよね。人の話に割り込んでしまうとか、人の話を否定するというのはつまり「人の話を聞かない人」なんですよ。

この前、市民講座でワークショップをやったときに、若い女性が男性上司から言われてショックだったという話をしてくれました。「仕事を辞めたいんです」と相談しに行ったら、「なんで辞めるなんてことを考えるんだ」という風に言われたと。「辞めたい」っていう気持ちを受け入れてくれるんじゃなくて、「辞めるって発想自体間違ってる。はい、話終わり」となってしまったと……。まさに“話を聞いてもらえなかった”という話なんですね。なぜこの能力が欠けているのか分からないんですが、一般論として、本当に男性は人の話を聞けません。これは会社においては大変な問題なんじゃないですか?

【川崎】それは、今の上司の世代というのは、そのもっと上からも話を聞いてもらったことがないからなんですよ。なぜなら、聞く方よりも、話す方がエライからです。トップダウンの経営がうまく行っていた時代は、どんどん上から話も落ちてくるからそれでよかった。でも今はどちらかというとボトムアップで、部下からいろんな意見を吸い上げなくてはいけない。だから、話を聞けない上司というのは、もう、その時点でダメなわけです。

今はそういうコーチングスキルとか聞くスキルが重要なのにも関わらず、自分がやってもらったことがないことって、なかなかできないんですよね。だから、そこを変えるのが辛そうです。みなさん、ワークも一生懸命やってくれるんですよ。でも「ああ! またなんか上から言っちゃった!」と言って苦戦している(苦笑)。「○○さんは、今、聞き役ですよ」って言うんですけど話してしまう。人間は話したいものですし、「この年だから」「上司だから」というのが刷り込まれちゃってて、なかなか難しいみたいなんです。

【田中】50~60歳くらいの世代の人だと、男らしさの定義がまだ「乱暴」「不真面目」「大ざっぱ」みたいなところだったと思うんです。僕の世代も正直そうですけど、ご飯の食べ方が汚くても、字が汚くても、男の子だからまあいいんじゃないって、男性はちょっと雑でも許されてきたんですよ。だからそれが、人の話を聞くとか、繊細さが要求される場面になると、著しく弱いっていうところにつながってるのかなと思います。

――今日のお話を伺っていて、これから男女ともに生きやすい社会を作るためには、男性側も女性側も、共に認識を改めなくてはならないことが多々あると気づかされました。どうもありがとうございました。(終)

●“女のプロ”川崎貴子ד男性学”田中俊之 対談記事一覧
第1回 結婚を不安視する男、幻想から離れられない女
http://woman.president.jp/articles/-/866
第2回  「結婚はコスパが悪い」という男性が結婚を意識するのはどんなとき?
http://woman.president.jp/articles/-/893
第3回 上司をおだてることは、会社の不利益である
http://woman.president.jp/articles/-/896
第4回 女性たちよ、管理職になれ!
http://woman.president.jp/articles/-/903
第5回 結婚したいのにできない人に必要なこと
http://woman.president.jp/articles/-/925
第6回 「減点法」コミュニケーションの行く先は、破局しかない
http://woman.president.jp/articles/-/926
第7回 男はつらいよ~男は「競争」、女は「協調」
http://woman.president.jp/articles/-/927
最終回 「夫が家事を主体的にやってくれない!」となぜ怒ってはいけないのか
http://woman.president.jp/articles/-/928
川崎貴子
1997年に女性に特化した人材コンサルティング会社、株式会社ジョヤンテを設立。経営者歴18年。女性の裏と表を知り尽くし、人生相談にのりフォローしてきた女性は1万人以上。プライベートではベンチャー経営者と結婚するも離婚、そして8歳年下のダンサーと2008年に再婚を経験、「女のプロ」の異名を取る。9歳と2歳の娘を持つワーキングマザーでもある。著書に、『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)など。
田中俊之
武蔵大学社会学部助教、博士(社会学)。1975年生まれ。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍中。著書に、『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)など。