家事協力で、男の主体性に触れるのはむしろマイナスである

【武蔵野大学 社会学博士 田中俊之(以下、田中)】僕は、主体性のことは言わないほうがいいと思うんですよね。だってこれは職場において、女性に対して浴びせられてる批判と同じなんですよ。「女性は昇級する意欲がない」とか「彼女たちは主体性がない」とか。「従って、女性の管理職比率が低いのは当然である」と続く。これは、男と女を分けて分業している社会の残念な宿命なんですよね。

先ほど川崎さんも指摘されていましたが、「これからは女性が~」と言いながら、結局は「結婚して、子供を産んでもらいたい」といった親の願いの中で女性たちは育ってきているし、教育でもそういうことをやってきてるわけじゃないですか。だから、彼女たちに出世意欲がなかったり、仕事での主体性がなかったとしても、それを「女性だから」という責任にしちゃったら何も改革できないんですよ。

「現状をこれからどうするか?」という話をしなければいけないときに、「主体性がない」と批判してしまったら、当事者である女性はすごく意欲がなくなると思うんですね。だからそこはエンパワーメントしなくちゃいけない。国もそうだし、職場もそうだし、周りの人が応援して力をつけるようにしてあげていく側面があるわけじゃないですか。だから、男性は家事能力が低いとか意欲がないというのも、その裏返しなんですよ。片方だけを責めるのは、非常にアンフェアな議論になってしまってよくない。

武蔵大学助教 田中俊之さん

男性は仕事だけしていればいい、それで親も周りも安心する……というのが今の社会の状況です。だから、家事育児に主体性がない人が大量に生まれるのは当然なんです。この人たちをどうやったら家事育児に主体的に取り組むようにしていけるかということは、国や企業や社会の責任です。

しかし家庭のことというのは、社会的に“公のこと”ではないため、個人に対して「勝手に主体性を持ってください」という話になりがちです。でも本当は分業している社会の弊害なんです。つまり、女性の社会進出に対して支援が必要ならば、男性の家庭進出にもそれなりの応援がないと成り立たないということです。

男性の家事に対して「主体性がない」という批判をするのは、「女性の管理職が少ないのは、女に主体性もなければ意欲もないからで、現状の男ばっかりの管理職の社会は正しい」と考えている人に力を与えることになります。だから、愚痴としては気持ちよくても、言わないほうがきっと、長期的には女性にとっても利益があるはずですよ。

家庭で男性ががんばることを、もっとエンパワーしないといけない

――男性の専業主「夫」も増えているし、子育てに真剣に取り組む父親も増えています。家庭で男性ががんばることに対しても、それこそ誰かがエンパワーしてあげなくちゃいけないと思うのですが、男性側から見てどのようにするのがいいのでしょうか。

【田中】女性には、すでにそういうことを川崎さんがやってらっしゃると思うんです。面談して、これから昇級していこうとか、60歳まで働くということでプランニングしていこう、など、女性の相談にのってあげていますよね。

男性にも同じように、「相談」が必要だと思います。もしかするとそれは、パパ友なのかもしれない。会社にそういう仕組みが組み込まれていれば、なおいいです。とにかく「自分が仕事や会社以外のところにパワーを割り振ろうとしたとき、どうすればいいか?」というのは難問なので、これを自己解決せよというのは無理な話です。

【川崎】まったくその通りだと思います。

【田中】コンサルティングはお金がかかることですから、難しければパパ友を作って知恵を授かるとかでもいいんですよ。こういう話をしたときに、「じゃあなんですか、女性はパパも育てなくちゃいけないんですか?」という不満が出てくるんですけど、それは先ほども述べたように、職業という領域で力を上手く発揮できてない女性をサポートしましょうという話と同じなんですね。男性が家庭に行くんだったら、それに対してサポートは必要なんです。自分だけで解決はまずできない。「家庭で頑張る男性の問題に対してはサポートが必要である」と、まず認識を変えなければなりません。

ただ、今はまだその段階に達していないのも事実です。どういう講座をやりましょうかとか、どういうコンサルをしましょうかとか、そういう話にすらなっていない、ということだと思います。