国民の富が政府に吸い上げられていく?

アベノミクスがよい成果をあげることができなかった場合、どうなるでしょうか。実はアベノミクスの副作用と言われることですが、インフレ率が2%にとどまらずにどんどん上昇してしまうと考えられます。つまり経済が“高熱”のような状態になってしまったときでも、日本政府は相応の成果が得られることになるのです。

ご承知の通り、日本政府の債務は1千兆円を超えてさらに増え続けています、それは国の経済規模の2倍を超えるものであり、日本は世界で他の追随を許さぬ大借金国家なわけで、インフレの進行が政府債務の実質価値をインフレ分だけ減らす効果があるのは、預金の目減りと同様のことです。

政府の借金は本来インフレ上昇に伴って金利負担の増大でトレードオフになるはずが、金利が意図的に低く抑え込まれているならば、金利負担を負うことなく債務の実質負担のみ軽減されていくという、政府にとって実に都合のいい仕組みになっているのです。

国内のお金の実質価値の変動は金利では補われず、インフレ分の減耗(げんもう)を余儀なくされる。言い換えれば、私たち国民・生活者の富が、明らかに国家・政府に移転されることにほかなりません。

ここまで考慮したなら、「脱・預金バカ」は、生活者が国や社会構造そのものから自らの財産を、ひいては人生をも守る上で最も重要な行動規範であると理解できるはずです。

「脱・預金バカ」が喫緊のことと分かれば、次は行動あるのみです。それは単純明快に言えば、「預金をインフレに打ち克つ資産に置き換える」ことです。すなわち「貯蓄から投資へ」、何だか耳にしたことのあるキャッチですね。これは政府が10年以上前から使い出したフレーズですが、デフレ社会においてはただむなしく響くのみでした。ところがインフレ前提社会への大転換期である今こそ、そして金利でのカバーが成されないアベノミクス政策下にあってはなおさら、珠玉の響きを帯びてきました。

ただし、これを安直に捉えてはいけません。皆さんが考える投資のイメージは、きっとインフレを克服する本来の投資とは違うものである可能性が高いと思われるからです。なぜ「脱・預金バカ」が必須のことかを得心したプレジデントウーマンオンライン読者の皆さんは、具体的手段に向けてアプローチするところまできました。次回はインフレに打ち克つ本物の投資について学んでいきましょう!

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社 代表取締役社長。1987年明治大学商学部卒業後、現在の株式会社クレディセゾン入社。セゾングループで投資顧問事業を立ち上げ、海外契約資産などの運用アドバイスを手がける。その後、株式会社クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年に株式会社セゾン投信を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現し、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。セゾン文化財団理事。NPO法人元気な日本をつくる会理事。著書に『投資信託はこうして買いなさい』(ダイヤモンド社)、『預金バカ』(講談社)など。