「感情性(パトス)」は一瞬の情報戦
「感情性(パトス)」は視覚情報を得た最初の1秒で決まります。
私は35年間、人間の自己表現の研究をしてきました。その中でも「非言語表現(言葉以外の表現)」の実験と研究データは日本で最大量を集めています。その実験結果から、クライアントの「感情性(パトス)」に効果的に訴えるテクニックを紹介しましょう。
その前に人間の視覚的な処理能力をみておきましょう。アメリカの心理学者ウィルソンの研究です。人の視神経は1秒間に1100万要素を認知します。その中で脳に伝達される情報は1秒間に40要素。一秒の間にかなりの情報量を得ていることになります。一瞬で得た視覚情報から、脳が印象を決定していくのです。
ウィルソンの実験では、一切の音声要素を抜いて、顔だけの情報しか見せないにも関わらず、被験者は顔の印象だけで、好感や親近感、信頼感、誠実さ、あるいは反対に頼りなさや冷たさの情報を読み取ったのです。さらに、その一瞬で判断された印象は時間が経過しても変化せず、初めに刻まれたイメージがそのまま継続する、という研究結果がでました。私の実験でも、同様の結論に至っています。
(1)人は相手の論理的説明を聞く前に、一瞬の「輪切りの印象(thin sliced impression)」で、相手に対して"好き"か"嫌い"かの1秒決定をしている。
―Timothy D. Wilson,2002,『Strangers to Ourselves』Harvard University Press.より引用
(2)人が最初の2秒で判断した印象は、5秒後も10秒後も変化しない。
―「顔における第一印象形成の確度と時間」2008年調査 佐藤綾子
「あなたはどう見られているのか」を意識する
つまり、あなたがクライアントに与える第一印象は、「顔」で決まると言えます。さらに「顔」と同様に、相手に同じタイミングで視覚的に入っていく情報として、「姿勢」と「動作」もポイントとなります。
以前私は、御茶ノ水駅前で「人は人の印象を何メートル先から読み取るのか」という実験をしました。結果、人は15メートル先から相手を見て、その姿勢からその人のイメージを判断していることが分かりました。背筋が伸びて元気とやる気がみなぎっているのか、肩が落ちて背筋が丸くなり、自信がなさそうなのか。姿勢は顔と同様に、あなたを判断する情報として相手の視覚に入っていきます。
それらをクライアントへの訪問時に応用してみると……。応接室に通された時の立ち振る舞い、座った時の姿勢にも気を配る必要があります。背筋はちゃんとのびていますか? うつむきがちになってはいませんか? 脚を放り出して座ってはいませんか? 背筋は気を抜くと丸くなりがちです。クライアントが視覚に入ってから姿勢を正しても手遅れです。訪問先では特に、人の目にどう映るかを意識してください。あなたは15メートル先から見られているのです。
もうひとつ。私の実験結果から歩幅について紹介しましょう。日本人女性の平均的な歩幅は55センチです。もしあなたが営業先でトボトボと狭い歩幅で歩いていると、クライアントはその視覚的な情報だけで「なんだか自信なさげで暗い人だ。大丈夫かな?」と感じてしまいます。「顔」「姿勢」「動作」には、歩き方も含まれていることを忘れないでください。