現金最弱時代と心得よ

さて、「脱・預金バカ」に話を戻しましょう。改めてデフレの定義をおさらいすると、デフレとはお金の価値がモノの価値よりも大きくなっていく社会です。この状態のことを英語では「Cash is king」と表現します。即ち現金は王様(最強)だということです。

デフレ社会においては現ナマが最強だとすれば、何も考えずひたすら銀行預金することは、結果的に正しい選択だったのです。お金を預金してじっと抱え込んでいるだけで、勝手にお金の価値が上がっていくのがデフレだからです。「預金バカ」こそが正しい行動規範だったわけですが、一方でインフレ社会における定義は、「Cash is loser」。つまり現金は最弱だ、にガラリと前提が変わる。まったく常識が逆になるわけです。

「脱・預金バカ」の意味が分かっていただけたでしょう。預金はできるだけ持たないことが、これからの賢明なる選択になるわけで、換言すればインフレ前提社会においては、お金(預金)をインフレに打ち勝つ資産に置き換えていくことが、新たなる行動規範となる時代が始まった、と読者の皆さんには強くインプットしていただきたいのです。

ちなみにデフレ病とは、人間の体に例えるなら低体温状態のことです。それを36度台の健康体温にまで引き上げていこうというのがアベノミクスの金融政策で、これが程よいインフレということです。ところが強引に体温を上げる治療ゆえ、副作用が出ると体温がどんどん上がり過ぎて高熱を発してしまうかもしれません。これをもってアベノミクスが劇薬と言われるゆえんです。

つまりこの先は、低体温のデフレを恐れることはもはや的外れであって、健康なインフレか高熱のインフレか、いずれにしてもインフレ経済が前提となる社会で私たちは自らの生き方を構築していく必然性に直面しているのです。

では次回、「脱・預金バカ」時代の賢明なる行動規範をお金の役割に考察しつつ深掘りしてまいりましょう!

※文中の「GDP」の数値は、「名目GDP」を使用しています。

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社 代表取締役社長。1987年明治大学商学部卒業後、現在の株式会社クレディセゾン入社。セゾングループで投資顧問事業を立ち上げ、海外契約資産などの運用アドバイスを手がける。その後、株式会社クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年に株式会社セゾン投信を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現し、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。セゾン文化財団理事。NPO法人元気な日本をつくる会理事。著書に『投資信託はこうして買いなさい』(ダイヤモンド社)、『預金バカ』(講談社)など。