電力・社会インフラには過剰な資産がある疑い

セグメント情報には事業部ごとの資産総額も開示されています。資産とは、会社が営業活動のために保持している財産のことで、現預金、在庫、建物、工場、土地、株式などがそれに含まれます。より少ない資産でより多くの収益を上げられる方が評価されるため、事業部ごとの資産を開示することで、どの事業が資産を有効活用しているかなどが分かります。

東芝の場合はどうでしょうか。2014年3月期における東芝の総資産は6兆2416億円です。そのうち、電力・社会インフラ事業に帰属する資産は2兆6424億円と最も多く、全体の4割以上を占めています。次に多いのが電子デバイスの1兆4303億円で、割合は2割以上。1位の電力・社会インフラと2位の電子デバイスでは1兆2121億円の差、すなわち倍近くの差が開いていることが分かります。事業ごとの資産割合を示したグラフは次のとおりです。

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事業別資産割合(グラフは編集部にて作図)

電力・社会インフラと電子デバイスでは同等の売上を計上しており、しかも近年は電子デバイスの方がはるかに多くの利益を獲得しているのにも関わらず、会社は電力・社会インフラに倍近くの資金を投資していることから、電力・社会インフラは投資効率が悪いことが分かります。

投資効率が悪いということは、収益をさほど生まないものが資産計上されているとも考えられます。東芝は資産にトータルで5801億円の「のれん」<買収価額が取得純資産の公正価値を超過する金額。詳細は連載第6回『東芝が「不適切な会計処理」より恐れるもの』(http://woman.president.jp/articles/-/488?page=3)参照>を計上していますが、のれんにかかる注記事項によれば、電力・社会インフラに関連するのれん代は4747億円となっています。もしその中で収益性の著しく低下した事業にかかるのれん代があれば、費用処理が必要となります。そういう意味で、一連の不正会計の影響を受け、2015年3月期の決算数値がどうなるのかが注目の的となっています。ちなみに、費用処理するとその期の収益は悪化しますが、その分資産が少なくなり、翌期以降の投資効率が改善します。

なお、今回の連載内容は2015年8月27日時点の開示情報に基づくものです。8月31日までには東芝の2015年3月期の有価証券報告書及び過去の訂正有価証券報告書が開示される予定ですので、次回はそれらについて触れていきたいと思います。

秦美佐子(はた・みさこ)
公認会計士

早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。