不適切な会計よりも恐ろしいもの、それは……
不適切な会計のなかでも、インパクトのある利益を嵩上げしていたことについて見ていきましょう。利益の嵩上げは、損失の先送りと利益の先取りによって行われました。東芝は当期の損失とすべきものを来期以降の損失としたり、来期以降の利益を当期の利益としたりすることによって、当期の利益をより多く見せかけてきました。
利益は「収益」から「費用」を差し引くことで計算されるため、費用を少なく計上すればその分利益が増えます。東芝では具体的には、赤字工事に関して工事損失引当金を計上しなかったり、買い戻す予定のある商品について利益を付加したまま売上計上したりしていました。工事にかかる損失が見込まれる場合は、予めその部分を費用処理し、工事損失引当金として計上するのがルールです。また、買い戻す予定のある商品を売った場合の利益については認められないのがルールです。東芝はこうした会計ルールから逸脱することで1518億円もの利益を嵩上げしてきたのです。
ただ、第三者委員会報告書ではそれらよりももっと大事な論点が抜けています。第三者委員会では棚卸資産の評価、減損会計や繰延税金資産の取り崩し等に関する検討が対象外となっています。なかでも減損会計は東芝の屋台骨を揺るがすリスクを孕んでいます。
減損会計とは、収益性が著しく低下したり見込を大幅に下回ったりした場合に、対象となる資産について償却をすることによって行われます。簡単に言えば、収益性の乏しい資産を費用処理することです。
実は東芝は2006年よりウェスティングハウスエレクトリック(以下、WHとする)という原子力事業が主たる業務の会社に、約8000億円の投資をしています。同社を簿価より高く買収した際に、その高く買った分を「のれん」として4000億円ほど資産計上したと言われています。ところが第三者委員会報告書によればWHでは多額な不正な利益が計上されています。予定通りに収益を上げていないとすればWHの買収に関連したのれんについては減損会計が適用されます。もしそうなれば、既に発覚した不適切な会計処理以上のインパクトを業績に与える可能性があります。2015年3月期に関する有価証券報告書は2015年8月31日に開示される予定ですので、そこで最終的な決算数値が明らかになるでしょう。
次回は東芝の事業内容や事業ごとの業績について見ていきたいと思います。
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。