“欠けたる”自分を許す術を知ろう
今回ご紹介する賢人の言葉のキモは、「自分が完全な人間じゃなければダメだという思い込みを捨てて肩の力を抜く」ことです。誰だって、一生懸命努力して、絶対的勝利を目指しながら仕事をしても、結果として駄目だったことはありますね。
私にもあります。ごく最近でお恥ずかしいのですが、まる1年かけてこれは絶対に多くの読者の支持を得られるだろうと確信して書いた単行本が、全く売れなかったこと。また、自分の貴重な仕事の時間を1カ月毎日1時間ずつ使って、事務所の新人を育てた揚げ句、「辞めます」と言われたこと。
パフォーマンス学を開始した30代の頃は、自分のやりたいアイデアが先走ってしまい、「どうしてあんなに猛烈なんだろうね」と悪口を言われたことが何度もありました。「パフォーマンス学って信仰宗教みたい」と言われて落ち込んだこともあります。そんな時に効いたのが次のひと言です。
英国詩人ロバート・ブラウニング『アブト・ヴォーグラー』より
これはブラウニングの『アブト・ヴォーグラー』という詩の一節です。既に英国屈指の詩人であったブラウニングは、ある時、当時の作曲家アブト・ヴォーグラーの音楽を聴いて大変感動を受けたのです。そして、猛烈に長い詩を書きました。
音楽は、その場で耳から聞こえて心に入ってくるものです。その音楽の美しさは、地上において、ブラウニングの詩才をもってしても、言葉で伝えることはできない。でも天上の神様は、その素晴らしさを完璧にご存じだというわけです。
とにかくこの詩は非常に長いのです。そこで世界中のブラウニングファンは「地上にて~」の部分だけを引用し、今やこのフレーズは、世界の知的著名人のお気に入りになっています。
大学時代にこの詩を一度読んだのですが、最近は103歳になられた聖路加国際病院の日野原重明先生の誕生会に招かれた際、先生がパワーポイントを使ってお話をされたので、びっくりしました。
103歳で、あれだけ素晴らしい業績をあげられても、ご自分がまだ“欠けたる”だというのですから、あなたや私が欠けばかりでも、いいですね。自分を許してあげましょう。
常に女性の生き方を照らし、希望と悩みを共に分かち合って走る日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。日本大学芸術学部教授。「自分を伝える自己表現」をテーマにした単行本は180冊以上。近著に『非言語表現の威力 パフォーマンス学実践講義』がある。