赤い糸と鍵の親密な関係

Q 制作を通じて、まさに人と人が結ばれていますね。目には見えない過程で生じた親密な“想い”も、作品に表れているのかもしれません。美術業界、一般の来場者問わず、実際に観た多くの人々から、記憶に残り、心を強く動かされる素晴らしい作品だと絶賛されていますが、制作前後で心境の変化はありますか?

【塩田】これまで、常に自分の今出せる力を出し切って仕事をしてきました。幸いにもこのことを評価され、日本館の作家に選ばれたのだと思います。

The Key in the Hand, 2015, red wool, old boats, old keys, Photo by Sunhi Mang

ただ「私が日本を代表する」と力みすぎると、自分が潰れてしまう恐れがありました。塩田千春という一作家として作品に取り組み、力を尽くそうと心がけました。

制作が終わり実際に開館してみると、「今年の日本館はどう?」とか「日本館の作品はいいね。」など、日本館という1人称で語られることが多く、日本を背負っていたのだと気づかされました。

これは、国別パビリオンという独特なシステムが確立しているヴェネツィア・ビエンナーレならではの体験なので、やってみなければ分からなかったですね。

また、はじめて作品に鍵を使いましたが、今回の経験を通して、鍵のもつ深さに気づかされました。今後も鍵をテーマにした作品をもっと発表したいと思っています。

日本館ではこういう形でやりきった達成感がありますが、別の場所ではまた違った作品になると思います。