チームを率いてカタチをつくるということ

Q 国際的な舞台で大掛かりな作品を制作する、という意味で、作家としての顔のほかに、戦略的にチームを率いるリーダーとして今回心掛けたことはありますか?

【塩田】通常は美術館など、館ごとに企画を司るキュレーターや作品の搬入および展示を管理するレジストラー、作品のコンディションを整えるコンサベーターなど、複数の専門家が存在している場所で私は作家として作品をつくることに集中できますが、今回は日本館という建物だけがあり、組織は国際交流基金が日本にある、という特殊な環境です。

1階のピロティでは子供の記憶にまつわる展示も。
The Key in the Hand, 2015, Courtesy of Chiharu Shiota

ビエンナーレ開催の約1年前に国際交流基金が実施するキュレーター指名のコンペティションで、キュレーターと作家が提案する展示プランが国内で選考されます。私の場合は日本にいるキュレーターの中野仁詞さん(神奈川芸術文化財団学芸員)と、本展のためにチームを組むところから始めました。私がヴェネツィアに比較的近いベルリンに住んでいることもあり、ベルリンで長年一緒に働いているスタッフと挑むことにしました。

鍵という新しいモチーフに挑戦すること、時間や予算、体制など条件が限られ、精神的にとてもハードで厳しい現場になることが予想できたので、私の作品に対する理解とともに、これまでさまざまな課題を共に乗り越えた信頼できる存在が必要だったからです。もしも私が日本に住んでいたら、経済的にも物理的にも毎月スタッフとともに現場へ通うことはできなかったでしょう。

そして、準備段階でも現場でも、予想をはるかに越えたいろいろな問題が次々生じましたが、キュレーターやスタッフなどチームや多くの人たちの助けがあり、自分を信じて諦めずにやり遂げました。最後の1週間は、信頼しているスタッフと会場に2人きりで濃密な作業に集中することができました。

また、現地で制作を手伝ってもらったスタッフに、その後の会場監視も引き続き携わってもらっています。こうしたスタイルは珍しいことのようですが、チームのメンバーには作品に深くかかわって欲しいので、このプランを最初から考え、実行しました。そのため、会場のスタッフは作品に対する愛情、理解がとても深いと思います。

こうした経験はここでしかできなかったと思うので、全てのクレジットにチームメンバーの名前を載せています。感謝と大きな達成感を感じています。