広告代理店に落ちてトヨタへ
就職活動をした頃は「氷河期」と呼ばれた時代です。本当は、ちょっとクリエイティブかなって感じた広告代理店に行きたかったんです。でも全部、落ちちゃって。4年生の春に就職活動を始めた当初は、何を話せばいいのかまったくわかりません。「自己アピールしてください」と言われると、一生懸命長々と答えてしまって。でも、求められているのは端的に話すことですよね。
それでも、だんだんと自分のアピールポイントが分かってきたんです。私は自分でゼロから何かを作り出せる人間ではないけど、いろんな人の知恵や技術を集め、それを大きく膨らませるタイプかなと。それが分かってからは就職活動が急にうまくいき始めました。最後のほうで受かったのがトヨタ自動車です。
入社1カ月後の配属希望面接では、ブランドマネージャーになりたいと言いました。メーカーには、商品のコンセプトが生まれるところからお客様に届くまで、一貫した意志をもってブランドを守る人間が必要です。そのために、最初はお客様が何を求めているかを一番理解できるマーケティング部門に行きたいと言って、そこに配属になりました。
しかし実は、入社当初から3年で辞めるという計画でした。もともと特定の環境でしか役に立たない人間になるのは嫌だというのがあったので、トヨタに最適化された人間になる前に辞めると決めていたんです。1つの会社で10年働いて、実は意識しないうちに出世競争に参加させられていて、10年経ったときに意図せず勝敗を言い渡されるような人生は嫌だと。トヨタには、社会人の最初の3年間で、世の中のしくみというか、ビジネスの基本を学びに行った感覚です。
しかし3年では辞められなかった。3年目に、ある高級車のモデルチェンジを担当したのですが、全然うまくいかなくて自分で納得のいく仕事ができなかった。それでもう1年計画を延長したんです。4年目に「WiLLサイファ」という新型車の市場投入を担当したんですが、こんどこそ納得できる仕事をしようと。WiLLサイファはカーナビでWebを利用できる「G-BOOK」というサービスをトヨタが初めて搭載したクルマだったのですが、この新しいサービスが載っているために通常のクルマ以上に社内外の関係者との調整が多くて、それがすごく勉強になりました。色々失敗もありましたが、達成感も大きかったですね。
構成=Top communication 撮影=向井渉