彼は金持ちだ。51歳。東京郊外に広い家を持ち、美しい妻と娘がふたり。上の娘は結婚して家を離れ、下の娘は現在、イギリスの大学に留学中。彼の職業は投資家だ。父親が創業した会社を二人三脚で発展させ、M&Aで売却。彼自身は数十億の資産を得た。父親はその3倍以上の資産を持っている。
毎日の生活と資産の運用について
実業から離れて2年経ちました。投資家としての仕事は金融機関の人と会うことと投資の勉強です。といっても月に1週間くらいで、あとはヨットをやったり、ダイビングしたり。いまは夜の町へ行くことはなく、生活費は仕事をしていた頃よりもはるかに安い。
資産は日本の銀行とヨーロッパのプライベートバンク(以下PB)に分散して預けています。だいたい半々くらいかな。銀行は3行です。日本はメガバンクと地銀、それから海外のPBです。日本にある外銀PBの支店に預けていたこともあるんですが、日本の法律の下ではサービス、商品ともに日本の銀行と変わらない。取引はやめ、資産は海外に移しました。
日本の銀行と海外のPBの違いはいくつかあります。まず扱っている商品が違う。日本の銀行が持ってくる金融商品は海外の金融機関が開発した商品がほとんど。ヘッジファンドを軸にしたもの、ファンド・オブ・ファンズなどはだいたい海外のもの。日本の銀行はそれを仕入れてきて、僕らに売るわけだから、手数料が2~3%は上乗せされ、買うほうは損をするわけです。
また、海外のPBではパフォーマンスが高くてリスクが小さい商品を扱っている。それを個人向けに1億円といった単位で売ってくれる。ところが日本ではそういう商品を買えるのは機関投資家だけ。個人が買おうとしたら100億円くらいの単位になる。つまり、日本の銀行は企業向けのサービス機関で、個人に向いてはいない。
そして、日本の銀行員は自分で商品を開発しているわけじゃないから、商品知識がいまひとつです。
「ヘッジファンドなど危ない商品には手を出さずに投資信託にしましょう」
そんなものかなと思っていたけれど、海外のPBにポートフォリオの設計を頼んだら、ヘッジファンドが6割も組み込んであった。ヘッジファンドというとなんとなくコワイものと思われていますが、本来はリスクをヘッジするからヘッジファンド。分散投資のひとつです。決して危ない商品ではない。
金持ちであり続けるには
PBに預けたら、日本の銀行よりもパフォーマンスはいいでしょう。まあ5%くらいでは。でも、僕らの家族にとっての関心事は増やすことでなく、資産を減らさないこと。特に相続税をいかに減らすか。日本にいて、父親が死んだら、資産の4割くらいは取られてしまう。そこで、僕ら家族は来年からイギリスへ移住することにしました。イギリスへ行って投資家ビザを取得する。そうしてバミューダなどのオフショアに資産を置いておけば相続税が無税になる。イギリス人には相続税がかかるけれど一時居住者のオフショア資産には税金がかからない。
ただし、楽じゃないですよ。相続税をゼロにするには親も子どももイギリスに最低5年は住まなくてはならない。さらに日本にちょくちょく帰ってきてはいけない。イギリスに1年のうち9カ月は滞在していないとダメ。父も母も「子どもと孫のため」と移住を決めたけれど、「ロンドンのメシはまずいだろうなあ」と愚痴っています。お金を守るのは大変です。