最初の仕事は鈴虫の飼育
そうそう、ちょっと面白かったのは、八王子駅に配属されてすぐの仕事が鈴虫を育てることだったんですよ。八王子駅では面白い先輩助役に恵まれて、彼らはイベントが大好きだったんです。それで、私が異動したときに計画していたのが、お客様に鈴虫をプレゼントしようというもの。駅の大き目の会議室にケースを並べて、数千匹という鈴虫を飼って育てたのですが、夜になるとうるさくて寝れないくらいで。私の助役としての初仕事は、その鈴虫たちにひたすらキュウリを切って餌をあげることでした。助役っていうのは、こんなことまでやるんだと思いましたね。
一方で駅の業務では、マネジメントの基本を教えてもらう日々でした。本格的に仕事の厳しさを知ったのは次に異動した国分寺駅です。国分寺くらいの規模の駅では、クレームが業務時間中に1度もなかったらとても平和な1日という感じがします。例えばこちらに粗相があって苦情があると、「責任者を呼べ、駅長を出せ」と興奮していらっしゃるお客様に責任者として対応するのは助役の役割です。「女じゃだめだ、男を出せ」と仰る方もいましたが、助役はあくまでも私。一生懸命に態度と行動で信頼してもらうしかありません。
国分寺駅ではこんなこともありました。
平成15年に中央線の連続立体交差化事業の第1回目が行われたとき、国分寺駅は工事の拠点となる駅でした。その際、朝6時に終了予定だった工事が大幅に遅れ、お客様に大変なご迷惑をおかけすることになりました。
私はそのお客様対応の責任者でした。朝動くはずの電車が昼過ぎまで動かなかったわけですから、駅は大混乱です。改札の前にロープを張って、押し寄せたお客様の前に立ち「申し訳ございません。まだ列車が動いていませんので、駅の中にはお入りいただけません」とハンドマイクで繰り返しご説明するのですが、怒声が飛んであちこちでお客様同士が言い争いを始めるという状態でした。それは私にとって鉄道というインフラの意味を実感した瞬間でした。皆さまの足を守るとはどういうことなのか。これほど重要な仕事を私たちは担っているんだと思い、当社の存在意義をますます実感することになったんです。