出勤初日の朝8時の光景は忘れられません。長いコートのポケットにハイヒールを突っ込み、スニーカーで足早に、ラージサイズのコーヒーカップをすすりながらオフィス街の高層ビルに吸い込まれていく女性たちの姿。“WOW ワオ……”確かにテレビか映画でこんなの見たな、と。

はじめた通信の営業がたまらなく面白かったんです。ちょうどカナダが通信規制を緩和し音声通話の自由競争を始めたころでした。日本人が多かったので日本向けに格安の電話プランをつくろうと思い、会社に交渉してサービスをはじめたのですが、これが大ヒットしてあっという間にマーケットを制覇しました。日本人旅行客用のテレカを販売したり、やることなすこと当たるっていうのはこういうことを言うのだと思います。通信営業の面白さにはまり、病みつきになっていました。

さらに大きな市場めざし娘と2人、シングルマザーでビッグアップルNYへ渡りました。NTTがアメリカでの事業を立ち上げる際にお声がけいただいたのですが、本当によくぞ私を見つけてくださったと今でも感謝しています。

当時のアメリカの勢いといったら想像を絶していました。1990年後半から2000年前半のアメリカはITバブルのピーク時で、シスコだ、マイクロソフトだとシリコンバレー発IT企業が怒涛のごとく市場を制覇していく、何がなんだかわからないようなことになっていました。

日本から見ていた世界の大きさと体感したスケールの差。ただただ驚愕とでもいうんでしょうか。NYの高層ビルの受付で「NTTの吉田です」といっても「AT&T?」なんていわれてしまう始末。こっちは「世界のNTTだ」くらいの勢いでいってましたからショックでした。

厳寒ビッグアップルの摩天楼を見上げ、自分のちっぽけさを嘆きながらも、妙なハングリー精神が湧いてくる、アメリカンドリームマジックにかかっていくわけです。