限界集落でビジネスをやる

【白河】奥田さんは今起業と子育てだけでなく、地方での介護、その体験から会社も作っていますよね。当然育児だけでなく介護、それも同時進行するかもしれないということが、これからの男女にとって重要な問題なのですが、なぜ地方に会社を作ったんですか?

【奥田】まず鹿児島の父が突然の骨折により要介護4になったんですね。それで月に5日は実家に帰るようになりました。そこで、多くの人がこれから人生の4分の1を親の介護に費やす時代になるのに、何の対策もないことに気がついたんです。医学が進歩していますから、介護の期間も5年から10年じゃなく、20~30年に伸びる可能性がある。25歳から40年介護をしているという人もいる時代です。介護者だけでなく、孤独な高齢者もたくさんいる。地方に行くとそういう問題にいっぱい突き当たる。だからまずそういう課題を発信しようと、課題解決に繋がるビジネスを限界集落で興そうと思ったんです。

【白河】それが徳島で作った「株式会社たからのやま」なんですね。具体的にはどういうビジネスなんですか?

【奥田】高齢者の人たちにITを使ってもらい、高齢者の製品の共同開発を目指しています。でも最初に高齢者の人向けのタブレット教室をやったら大失敗。

【白河】え、どんな大失敗?

【奥田】30人の高齢者の方に集まってもらい、タブレットの使い方を教える会を引き受けたのですが、LINEのようなアプリを取得するまでに、なんと5つのIDやパスワードが必要ということに気付いたのです。結局、講習でもメアドやアップルIDをつくるところから始めて、最終的に時間内にアプリを楽しめるところまでたどり着いたのはわずか1人でした。

【白河】それは県の事業ですよね?

【奥田】そうです。県の教育事業として、大失敗でした。しかしそれを隠さず発信してみたら、ブログに10万PVアクセスがありました。たからのやま社のブログの「高齢者へのiPad導入を阻んだiOSのUI/UXの話」というタイトルでの発信です。そこに対しての反応ですが、9割が「うちも同じ」「こうしたらどう?」という肯定的なもの。人間叶えたい思いがあれば、失敗を発信したほうがいいと学びました。たから=課題なんです。地方には課題があり、ビジネスの元がたくさんある。だから「たからのやま」です。