ロシアから指名手配された同僚との結束
慣れない環境の中で、心の支えになったのは、予審第二部の同僚の存在です。当時の第二部は、イタリア出身のロザリオ・サルヴァトーレ・アイタラ判事、コンゴ民主共和国出身のアントワーヌ・ケシア─ムベ・ミンドゥア判事と私の3人で構成されていて、特にアイタラ判事とは最初からとても気が合いました。
彼は私と同じ検事出身で、マフィアやテロリストに命を狙われた経験も度々。同僚の検事や仲間の判事が何人もマフィアに殺害されたという彼は「検事魂」みたいなものを持っていて、元検事同士という点で、すごく通じ合うものがあった。イタリアはいわゆる大陸法系の法体系を持つ国で、日本と似ているので話が通じやすいし、彼はローマ規程にも詳しかったので、いろいろ教えてもらうことができました。同僚2人とコミュニケーションを深める中で、私もだんだん自信をつけていったように思います。ちなみに、アイタラ判事と私は、のちにロシアのウラジーミル・プーチン大統領らへの逮捕状を発付する決定を下し、ともにロシアから指名手配されることになります。
裁判官たちの自己主張は“強め”
ICCで働き始めて、つくづく実感させられたのは、「日本人には想像もつかないようなタイプの人が世界にはたくさんいる」ということです。驚くほど自己主張の強い人が大勢いますし、ものの考え方も本当に様々で、裁判官の意見をまとめるのは容易ではない。
出身地域だけでなく、法律家としてのバックボーンも多様で、私のように国内で裁判官、検察官といった刑事実務家としての仕事をしてきた人間もいれば、ずっと国際舞台で国際機関の職員、国際裁判所の判事や職員、あるいは外交官として活躍してきた人もいるし、国際法などの学者さんもいる。共通の基盤がまるでないという難しさがあります。
自分なりの意見を持ち、粘り強く話し合う
いろいろな意見がぶつかり合う中で、いかに物事を前に進めていくか。これといった解決策はないように思います。私が心がけてきたのは、とにかく自分自身で納得がいくまで事件記録や証拠を読み込み、必要な理論もその都度勉強して自分なりの結論を出した上で議論に臨むこと。そして時間をかけて話し合うこと。何度も何度も話し合って、時が解決してくれるのを待つとでも言えばいいのか。口頭の議論でうまくいかないときは、書面をつくって丁寧に説明することもありました。こうした私の姿勢は、周囲から「粘り強い」と評価されるようになっていきました。
東京大学法学部卒。1982年検事任官。横浜、津、名古屋、仙台、札幌他地検検事、東京高検検事、函館地検検事正などを経て国際連合アジア極東犯罪防止研修所所長、法務省法務総合研究所所長、最高検察庁検事など歴任。名古屋大学・中京大学法科大学院教授、外務省参与・国際司法協力担当大使なども務めた。2018年国際刑事裁判所(ICC)判事。2024年3月からICC所長。
