法務省の上司に強く推され、引き受けた
すると、私の上司はこう言いました。
「今回、誰かが引き受けなければ、法務省からは二度とICCに人を送り出すことができないかもしれない。あなたが行ってくれれば、若い世代があとに続いてくれるはずだ。そのためにも引き受けてもらえないか」
そんなふうに言われると断りにくい。迷った末、私は腹を決めました。検察官を務めてきた自分だからこそ貢献できることもあるかもしれない。ならば、引き受けてみようと。そのときの私は、どれほど過酷な日々が待ち受けているのかを、まだ知りませんでした。
トップ当選するも、不安は拭えず
内閣の承認を受けて、私は正式にICCの裁判官選挙に立候補することになりました。
ICCの裁判官は、出馬した候補者の中から、締約国の投票によって選ばれます。全部で18人いる裁判官のうち、6人ずつ、3年おきに改選されていく。各国の代表が集まる「締約国会議」の際に選挙を行うことになっています。
ここで「締約国」という言葉について説明をしておきたいと思います。ICCは、裁判所の構成、管轄犯罪、手続などを規定した「ローマ規程」という国際条約を締約した国によって構成されています。したがって、メンバー国は締約国と呼ばれる。メディアなどでは「ICC加盟国」という呼称が使われる場合もあります。
2017年12月、ICCの締約国会議開催地のアメリカ・ニューヨークで、私も投開票を見守りました。有効票全体の3分の2以上の票を獲得しなければならないので、1回目の投票では簡単に決まらないと聞いていたのですが、蓋を開けてみれば1回目で有効票109票のうち88票を獲得してトップ当選。国際社会の日本に対する信頼の高さを実感するとともに、「こんなに簡単に決まっちゃうの?」と困惑もしました。同時に、「本当に私にできるだろうか」と当選の喜びよりも不安が押し寄せてきたのを覚えています。ちなみにこのときの裁判官選挙は、6名全員が決まるまでに、3日間、9回の投票を要しました。